目の端で息吹がゆっくりと身体を起こすのが目に入った。
だがどこか顔つきが違う。
いつもより大人びていて、いつもより女らしい顔をしていた。
「息吹、目を覚ませ!その身体はお前のものだ。息吹!」
「よそ見をするな。今度はお前の手足と胴体、頭をこの手で斬ってやる!」
畳を蹴り、鬼八が急接近してくるとのほほんとして腕組みをしていた晴明が札に息を吹きかけ、鬼八に向けて放った。
「悪鬼退散」
すると一面二臂、剣を手に青黒い筋肉隆々の身体をした不動明王が主さまの前に立ちはだかった。
「術士か!」
「そこの男は口下手故私が代わりに話すが、息吹は私の娘だ。そなたのような古より生きる者の嫁になどさせるつもりはないから返してもらうぞ。…息吹」
――晴明が名を呼ぶと、肩口まで着物をはだけさせて虚ろな瞳で正座していた息吹がゆっくりと顔を上げた。
「…父…様…」
「そうだよ、そなたの父だ。息吹…そなたが幼き頃から私がこの手で育ててきたのだ。そなたは息吹以外の何物でもない。さあ、戻って来なさい」
「…俺の手で育てたんだ」
鬼八が不動明王に苦戦している間に主さまは小さな声でそう反論して晴明を鼻で笑わせた。
「なに?蝶よ花よと美しくなったのは誰のおかげだと思っている。息吹を口説きもできず悶々としながら絵を持ち歩いていたのはどこのどいつだ?」
「…」
また何も言えなくなってしまい、少しずつ鵜目姫を押し返して抵抗している息吹に声をかけた。
「息吹、置いて帰ってもいいのか?…俺と離れ離れになるぞ。それでもいいのか?」
「ぬし、さま…」
鬼八が舌打ちをし、天井を突き破りそうなほどに大きな不動明王の脇を掻い潜ると主さまに鬼の手を振りかざした。
「死ね!」
「お前が死ね!」
今度は鬼の手を天叢雲がしっかりと受け止めた。
受け止めつつ、人差し指と中指の指の股に食い込み、それに驚いた鬼八が後方に飛び退った。
「力を取り戻したか…!」
「晴明、息吹を頼む」
「ああ」
主さまが妖艶に笑む。
「さあ、終わらせようか」
だがどこか顔つきが違う。
いつもより大人びていて、いつもより女らしい顔をしていた。
「息吹、目を覚ませ!その身体はお前のものだ。息吹!」
「よそ見をするな。今度はお前の手足と胴体、頭をこの手で斬ってやる!」
畳を蹴り、鬼八が急接近してくるとのほほんとして腕組みをしていた晴明が札に息を吹きかけ、鬼八に向けて放った。
「悪鬼退散」
すると一面二臂、剣を手に青黒い筋肉隆々の身体をした不動明王が主さまの前に立ちはだかった。
「術士か!」
「そこの男は口下手故私が代わりに話すが、息吹は私の娘だ。そなたのような古より生きる者の嫁になどさせるつもりはないから返してもらうぞ。…息吹」
――晴明が名を呼ぶと、肩口まで着物をはだけさせて虚ろな瞳で正座していた息吹がゆっくりと顔を上げた。
「…父…様…」
「そうだよ、そなたの父だ。息吹…そなたが幼き頃から私がこの手で育ててきたのだ。そなたは息吹以外の何物でもない。さあ、戻って来なさい」
「…俺の手で育てたんだ」
鬼八が不動明王に苦戦している間に主さまは小さな声でそう反論して晴明を鼻で笑わせた。
「なに?蝶よ花よと美しくなったのは誰のおかげだと思っている。息吹を口説きもできず悶々としながら絵を持ち歩いていたのはどこのどいつだ?」
「…」
また何も言えなくなってしまい、少しずつ鵜目姫を押し返して抵抗している息吹に声をかけた。
「息吹、置いて帰ってもいいのか?…俺と離れ離れになるぞ。それでもいいのか?」
「ぬし、さま…」
鬼八が舌打ちをし、天井を突き破りそうなほどに大きな不動明王の脇を掻い潜ると主さまに鬼の手を振りかざした。
「死ね!」
「お前が死ね!」
今度は鬼の手を天叢雲がしっかりと受け止めた。
受け止めつつ、人差し指と中指の指の股に食い込み、それに驚いた鬼八が後方に飛び退った。
「力を取り戻したか…!」
「晴明、息吹を頼む」
「ああ」
主さまが妖艶に笑む。
「さあ、終わらせようか」

