主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-【完】

主さまは天叢雲を手に大きく振りかぶり、目に見えない結界を一刀両断にした。


途端山鳴りがしたと思ったら、目前に今まで隠れていた天然の洞窟が現れ、主さまは瞳を細めた。


「行こう」


「待て十六夜。どうやって鬼八を倒すつもりだ?」


「斬る。鬼八の命はなまくら刀が吸い取る」


『なまくらとは失礼な。今後そう言わせぬよう気張るとしよう』


怒る様子も見せずくつくつと笑い、百鬼を超える妖たちも怒涛のように洞窟へ殺到しようとしていたが、主さまはそれを抑え、首を振った。


「俺と晴明に任せろ。ただし鬼八を殺せず外へ出てくるようなら、やれ」


「おう!任せろ主さま!」


――結界が晴れたことはもう鬼八に知られているだろう。


だとすればいち早く息吹を救わなければ、息吹は本当に鵜目姫になってしまうかもしれない。


「待て待て、私にも準備が…」


洞窟の中を足早に歩きながら晴明がその場にそぐわぬのんびりとした声を上げたが、主さまはそれを無視して走り出しそうな勢いで小さな家の前に立った。


そして、小さく名を呼びながら戸を開けた。



「息吹…!」


「…なんだ、もう来たか」


「!貴様…!」



主さまが見た光景は…


着物が肩半ばまではだけ、鬼八に覆い被さられた息吹の姿。


その瞳はどこか虚ろで、1度こちらを見ると…かっと瞳を見開いた。


「息吹!」


「ぬし…さま…」


「違う、あなたは鵜目姫だよ。…で、何をしに来た?鵜目姫は蘇ったぞ。もうお前の知っている息吹姫じゃない。この人は鵜目姫だ」


わなわなと手が震え、主さまの瞳には今まさに息吹が鬼八に抱かれそうになっていたようにしか思えなくて、一気に殺気が爆発する。



「ふざけるな…。息吹が鵜目姫の血筋の者であっても、息吹は息吹だ。そいつは俺のものだ、返してもらう」


「鵜目姫は俺の妻だ。華月の血の者よ、また繰り返すすつもりか?今度は油断も手加減もしないぞ!」



――主さまの手に握られている天叢雲を見た鬼八はかつてを思い出し、息吹…鵜目姫からすさかず離れると右手を異形の鬼の手へ変化させた。