主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-【完】

恥ずかしすぎる告白をした主さまは顔が真っ赤なまま天叢雲を手に空を駆け上がった。


『恥ずかしい奴め』


「うるさい。それよりもお前は力を取り戻したんだろうな?」


『くっくっく、思い出したぞ。我は遥か悠久の時より存在する尊き存在。今回はきっちり鬼八の命を取り込んでやる』


「…で、俺に鵜目姫と鬼八と華月の過去を見せたのは何故だ?」


天叢雲は少しだけ沈黙すると、間延びした声を出した。


『あの娘に固執するのは先祖からの所以であることをそなたに知らしめてやろうと思ってな』


「違う。俺が息吹に惹かれているのは………なんでもない」


また恥ずかしいことを口走ってしまいそうになって黙り込むと、猫又に乗っていた晴明が噴き出した。


「そんなでは到底息吹に告白などできるものか。ああ私の娘をこんなむっつりに嫁がせるわけにはゆかぬぞ」


「…うるさい」


否定すればいいのに否定しない主さまは相変わらず晴明の格好の餌食で、空を山を駆けながら乳ケ岩谷を目指し、妖たちの雄々しい叫び声が木霊する。


「主さま!息吹は無事だよな!?」


「当たり前だ。鬼八は絶対に息吹を傷つけない。…が…」


「息吹を鵜目姫が転生した女子だと思っているのであれば……まずいぞ十六夜。記憶を引きずり出され、そして身も心も…」


「…過去を見せられている時、息吹が鵜目姫の中に居た。鵜目姫は息吹に………いや、駄目だ、息吹は俺の…」


――断言できない。


もしかしたら俺は華月の生まれ変わりではないのだろうか?


だとすれば、過去の惨劇をまた今繰り返そうとしているのだろうか?


「十六夜、余計なことを考えるな。息吹を好いている想いはそなただけのもの。見誤るな」


「…わかっている!」


そして息吹が隠されている洞窟の前に着いた。

が、結界が働いて入り口が見つからず、主さまは力を取り戻した天叢雲を封印している布を解くと、囁きかけた。


「行くぞ。結界を切り、鬼八を食らえ」


「そなたもよく我の試練に耐えた。仕方ない、力を貸してやる」


天叢雲から白光が生まれた。