主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-【完】

100年に1度…華月は鬼八を封じた首塚の大岩の前に立つ。


『また来たか…。鵜目姫はまだ転生していない。だから俺も大人しく封印されていてやる』


鬼族も不死の寿命を持っているわけではない。

華月は鬼の里で決められた鬼族の娘を妻に娶り、鵜目姫と同じく無理矢理血を繋ぐことでしか鬼八を封じることができなかった。


『…俺が死んだ後は俺の子がお前を封印する。永遠にだ』


『勝手にしろ。だが鵜目姫が転生すれば俺は必ず胴体と手足を取り戻して、今度こそ永遠に結ばれるんだ』


大岩の下に封じた鬼八の首は明朗に話し、最後にぼそっと呟いた。


『お前は嫌いじゃなかった。お前もまた転生するのならば、次は永遠に親友でありたいものだ』


『…』


華月は静かにその場を去った。

それが鬼八と交わした最期の言葉となった。


――主さまの瞳がすう、と開いた。


ずっと見守っていた晴明は完全に天叢雲から放たれていた妖気…いや、邪気が消えたのを確認すると、主さまの肩を揺さぶった。


「十六夜、意識はあるか?」


「…息吹は…三毛入野命と鵜目姫の末裔だった」


「なに…では純粋な人では…」


ゆっくりと起き上がり、息吹とお揃いの朱色の髪紐で乱れた髪を結び直すと主さまは颯爽と立ち上がり、黒瞳をぎらつかせた。



「俺と息吹には深い縁がある。…それがあるから惹かれたとは思いたくない。俺は息吹を…愛している」


「ほう、私の前でよくもぬけぬけと恥ずかしくなるようなことを言ったな。言っておくが私はひどい舅になるぞ。そなたをいじめ抜いてやるからな」


「望むところだ」



…だが宣言した後急に恥ずかしくなったのか、主さまの顔色がみるみる赤くなっていき、晴明は肩を竦めて主さまの肩を労うように叩いた。


「息吹に言えるか?」


「………無理だ」


結局は息吹に対しては純情すぎる一面のある主さまは肩に乗った晴明の手を振り払うと庭の戸を開けて妖たちを呼び寄せた。


「息吹の居場所がわかった。今から鬼八に総攻撃をかける。全員ついて来い!」


「おおぉーー!」


山鳴りが、山を震わせた。