主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-【完】

華月はそれから数時間しばらく動けなかった。


鵜目姫と三毛入野命が夫婦に…?

そしていつかその血筋の者に転生して…鬼八と再び巡り合う、と?


『そんなこと…させない…!』


鵜目姫がそう願うのであれば…自分はそれを阻止するのみ。


自分もまた血を繋ぎ、鬼八を封印し続け、あの男と結局一生付き合わなければならない運命となってしまったのだ。


『…鬼八…!』


低い怨嗟の声が華月の口から漏れた。

黒瞳は怒りと呪いに吊り上り、爪で刺された右肩を押さえながら、なお叫んだ。


『お前を封印し続けてやる!鵜目姫と会わせるものか!』


――その頃鵜目姫は里に連れ帰られ、家で父や母たちに抱きしめられていた。


『あなたは鬼に惑わされただけ。帰って来て本当によかった!』


『お母様…お父様…ごめんなさい…。私は助けて頂いた三毛入野命様に嫁ぎます。ね、三毛入野命様…』


一歩下がった場所で静観していた三毛入野命は…振り返ってそう言った鵜目姫の表情にぞくっとしながら頷いた。


『あ、ああ。鵜目姫、こちらへ』


驚く両親の傍から離れ、手を引きながら2階へ上がって2人きりになると三毛入野命は作り笑顔を浮かべる鵜目姫をぎゅっと抱きしめた。


『無理をしない方がいい。あなたは俺のことを好きじゃないし、鬼八のことを…』


『いいえ、あなたに嫁ぎます。鬼八様が封印されてしまった今、あなたしか居ません。…私のことが…嫌いですか?』


…嫌いなわけがない。

池の水面に映った鵜目姫に見惚れたし、実際こうして会っている今も動悸が収まらず、これは夢ではないのかと思っているのに。


『…いや、あなたを妻にできるのならば本望だ。が…鬼八を復活させるつもりなのか?そのために俺と…』


『そうです。全ては鬼八様とまた巡り合うため。三毛入野命様…どうか私をあなたの妻にしてください。あなたとの子を…』


――あなたとの子がいずれまた子を生み、そしていつか巡り合うだろう。

最愛の人に――


…鵜目姫はその言葉を呑み込み、三毛入野命の胸にしなだれかかった。


そうしながら、華月への憎しみと、鬼八への愛を膨れ上がらせていた。