主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-【完】

華月が戻ってきた時――


鵜目姫は、覚悟を決めていた。


『…鬼八は殺せなかった』


『そうでしょうね、あの方は死にませんから。私が転生して、私と巡り合うまでは死にません』


――さっきまで泣いていたのに。


三毛入野命は鵜目姫の芯の強さに惹かれ、鵜目姫に近づこうとする華月の前に立ちはだかった。


『…邪魔をする気か?』


『鵜目姫の話を聞いてやれ。力ずくで妻にしたとて逃げられるだけだぞ』


床の上でずっと黙っていた鵜目姫はすっと音もなく立ち上がると…


華月ににっこりと笑いかけた。



『私は三毛入野命様の妻となります。あなたとは絶対に夫婦になりません。…あなたを呪うわ』


『…俺はあなたを救おうと思って…』


『いいえ、あなたは私を苦しめただけ。鬼八様を封じたあなたを一生許しません。私は三毛入野命様に嫁ぎ、血を繋ぎ、そしていつか…鬼八様と巡り合います』



まさか自分の妻に、と切り出すとは思っていなかった三毛入野命は苦笑せざるを得なかった。


鬼八の復活を願い、華月を憎む鵜目姫に自分は利用されるだけ。

愛ある夫婦関係ではなく、それもまたよくわかっているが…


力ずくで華月が夫婦になろうとしているのならば、断固として自分が阻止してやろう、と。



『鵜目姫…!鬼八を待つつもりか?何年何百年かかるかもしれないのに?!』


『それが何ですか?あなたは私と鬼八様を引き裂いた。きっと私の血を継ぐ者が、あなたを殺しに現れる。私はそう願います。絶対にあなたを殺してやる!』


『…!』



――救おうと思っていたのに。

恋をしたのは事実だけれど、鬼八は鬼族の中でも疎まれるほどの力を持った神に等しき存在。

鵜目姫と鬼八がこんなにも深く愛し合っていたとは――


華月はよろめき、ぎり、と歯ぎしりをした。


鬼八を封じることには成功したが…

封印をし続けない限り、今も力を持ったままの鬼八は封印を壊して復活してしまう。


自分もまた血を繋ぎ、鬼八を封印し続けなければならないのだ。


『鵜目姫…!』


『私の名を呼ばないで。三毛入野命様、行きましょう』


去る。