主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-【完】

さすがに鵜目姫の前で鬼八を殺すわけにはいかず、華月は両腕を失った鬼八を抱えて空を駆けていた。


その間…

鬼八はずっと、笑っていた。


『…何がおかしい』


『さっきの鵜目姫の言葉…聴かなかったのか?俺たちは来世でも夫婦の約束を交わした。それに鵜目姫はお前とは絶対に夫婦にはならないぞ』


『何故そう言い切れる?お前を殺した後鵜目姫が俺と夫婦になり、いずれお前の墓の前で手を合わせることもあるかもしれないぞ』


…今度は声を上げて爆笑した。

まるで幼い頃2人で性質の悪い悪戯をした時のようにあまりにも無邪気に笑ったので、華月は鬼八を下ろして開けた野原に放り投げた。

受け身を取れない鬼八は転がりながらもなんとか立ち上がり、まだ笑い続けていた。


『お前と夫婦になる位なら鵜目姫は自ら命を絶つだろう。そして転生してもなおお前を許しはしないだろう。お前は何も変えられない。何も』


『…』


天叢雲を握る手に力がこもり、ゆっくりと歩み寄る華月を胡坐をかいて鬼八は待ち受けながら、また呪いをかけた。



『手足を斬られても、胴体を斬られても、頭をもがられても、俺は死なない。お前を呪う。一生呪い続けてやる。…鵜目姫と共に』



――結局何ひとつ鬼八よりも優れているということを証明できなかった。


あの美しい姫も、力も、優しさも…笑顔も…


何ひとつ、この男には勝てない。



『…殺すことができないのならば、俺が一生お前を封じて生き返れないようにしてやる。鵜目姫が転生しても、俺が会わせない』


『何百年、何千年かかると思っているんだ?お前は小さな頃から俺に振り回されてばかりだな、同情する。…さあ、やれ。そして思い知れ。俺と鵜目姫の愛を』



天叢雲が一閃し、鬼八の胴体を凪いだ。

鬼八の笑い声は止まらない。

次に両脚を斬った。


『痛くも痒くもない!死なないぞ、俺は死なない!』


…頭痛と吐き気が襲ってきた。

華月は必死に耐えながら、最後に首を斬った。


鬼八の眼光は鋭く、さらに華月を苦しめた。


『お前の一族全てを呪ってやる!思い知れ!』


そして鬼八は、封印された。