主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-【完】

今生では鬼八と一緒に夫婦になることは適わない――


そう悟った鵜目姫は、選択をしなければならなかった。


…神族は永遠の命を持っているわけではない。

人よりは遥かに寿命は長いけれど、それでもいつか死はやって来る。


鬼八は“死なない”と言った。

自分と巡り合うために、“死なない”と言ったのだ。



『鬼八様…私も…私も一緒に…!』


『駄目だ鵜目姫。あなたには死んでほしくない。どうか…どうか生きて。そしてまた…巡り合おう』



鬼八の瞳に浮かぶ色を見てさらに確信した鵜目姫はその場に崩れ落ちながら両手で口元を覆い、溢れる涙を堪えた。


『はい…。私も待っています。鬼八様、あなたと巡り合う日を…!』


『ふざけるな、そんな日は来ない。お前は俺が殺すんだ!』


毒を受けながらも華月も本来の鬼の姿になり、刀を手に両腕を失った鬼八ににじり寄る。

これ以上無残な鬼八の姿を鵜目姫に見せたくなかった三毛入野命は鵜目姫の前に立ち、その身体を抱き上げた。



『あなたはここに居てはいけない。さあ、中へ』


『鬼八様、必ずまたお会いしましょう!私は転生してきます!必ずまたあなたの元へ戻って来ます!』


『ああ、待っているよ鵜目姫…!また夫婦になろう、絶対また一緒に…!』



…鬼八が微笑んだ。

それは鵜目姫が見た鬼八の最期の姿となった。


『鬼八様、鬼八様ぁーっ!』


『鵜目姫、諦めなさい。あれは悪鬼だ。先ほど呪いをかけていたが…無事に屠ることができればよいが』


『鬼八様は死にません。私が転生するまで待っていて下さるのです!絶対に死にません!』


信じ切った鵜目姫の瞳には止まることのない涙。

いっそ哀れに思った三毛入野命は鵜目姫を床に座らせると息をついた。


外では一体何が行われているのか。

あれから静寂に包まれているのでこの場から華月が鬼八をどこかへ連れ去ったのかもしれない。


『あなたは…鬼八を愛していたのか』


『当然です!あの方が愛しくて…大切なのに…!』


――泣き崩れる鵜目姫に訳もなく愛情が沸いてきた三毛入野命はそっと肩を抱くと、そっと抱きしめた。