主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-【完】

鬼八が触れてこないことにはなんとなく気付いていた。

そして、鵜目姫の中の息吹も――


「駄目…駄目だよ鵜目姫…」


鵜目姫と感情が同調してしまっている息吹は危機感を覚えていた。

このままでは…

添い遂げたいと思っている男ではない男に抱かれてしまう――


…添い遂げたい男?

それは…誰?


『鬼八様…』


『ああ鵜目姫、温泉はどうだった?気持ち良かったでしょ?俺はいつもあの温泉で身体の疲れを取ってるんだよ』


『…鬼八様…』


寝転がっていた鬼八の隣にそっと座ると一瞬鬼八が身じろぎをした。

何かの予感を感じて逃げようとする鬼八の腕を鵜目姫がやんわりと取って自身の頬に導いた。


『鵜目姫…?』


『夫婦に…本当の夫婦にしてください』


――真っ直ぐで真剣な瞳。


躊躇してしまっている鬼八は苦悩に瞳を揺らし、掌に伝わる鵜目姫のあたたかな熱とやわらかな感触にぎゅっと瞳を閉じた。


『もうここまで来てしまいました。私は里には戻りません。あなたと添い遂げたいのです』


『…鵜目姫…俺は…』


『離縁…ですか?やっぱり…私はもう要らないのですか…?』


鬼八がはっと顔を上げた。

鵜目姫の瞳にみるみる涙が溜まり、そして息吹も小さな頃の自分と感情を重ねてしまって悲しくなった。


『お願いです鬼八様…私を妻にしてください』


『…本当に…本当に後悔しない?』


『あなたは後悔しますか?なら…私はここを出て行きます』


腰を上げようとする鵜目姫の手を鬼八が強く引っ張って胸に抱きしめた。


愛しすぎて大切に大切にしたい女――

想いは一緒なのに、最後の一手を打つことができないでいる女――


――鬼八はゆっくりと鵜目姫を畳に寝かせて覆い被さった。



『鵜目姫…俺の妻になってくれ。あなたをずっと欲しかった』


『はい…私も…』


「やめて…やめて…!」



鵜目姫の中の息吹は叫べど叫べど、火がついた2人を止めることはできなかった。


身体を重ね合って真の夫婦になった2人を鵜目姫の中から見つめることしかできなかった。