くらりと眩暈を感じた息吹が座り込むと、鬼八は息吹を抱き上げて洞窟の奥に作られた小さな家に入った。
「俺と鵜目姫はここで幸せに暮らしてたんだ。幸せだったあの日々…今でも忘れられない」
「鬼八さん…」
畳が敷かれた6畳ほどの部屋には床が敷いてあり、そこに息吹を下ろすと鬼八はすぐに手を離した。
「息吹姫…俺の記憶をもっと見たい?」
「…鵜目姫とは両想いだったんだね。私の知ってる話では鬼八さんは鵜目姫を攫って…」
「攫ってない。俺たちは偶然出会って、惹かれ合って…でも俺が鬼だから夫婦になるには反対されるだろうと思って2人で里から逃げたんだ。全然違うよ」
――主さまは強引に触れてくるけれど、鬼八は違う。
誠実な態度でやわらかい笑みを浮かべている鬼八はとても魅力的で、鵜目姫でなくとも女ならば見惚れるだろうと思わざるを得ない魅力に溢れていた。
「じゃあ…悪鬼っていうのも…」
「俺に尋常じゃない力があるのは確かだよ。だから胴体も手足も首もばらばらにされた。ほら、見て」
着物の胸元をはだけさせると、鬼八の首には横線が走っていた。
さらに腕を抜いて上半身をさらしたその均整な身体には両の上腕部分にも横線が走っている。
つい息を呑むと、鬼八は少し意地悪気な表情を浮かべて息吹に顔を近付けた。
「下も見たい?」
「え?!鬼八さんったら!やだ!」
布団を頭から被って身体を隠すと、鬼八がやわらかく抱きしめてきた。
「俺にこうして抱きしめられたこと…俺と毎夜共に眠ったこと…俺と…」
怖ず怖ずと顔を出した息吹のすぐ傍には鬼八の端正な美貌があって、指を絡めてきたその優しさに身体の奥底から何かが吹き上げてくる。
「俺とこうして数えきれないほど唇を重ねたこと…思い出して」
「鬼八さ、ん…」
――やわらかく、限りなく優しく重なってきた唇。
途端、息吹の頭に主さまの姿が浮かんだ。
主さまもこうして自分を求めて、強引ながらもあの男に求められるととても嬉しかった――
だが、鬼八が求めているのは鵜目姫だ。
自分ではない。
「主さ…っ」
名を呼ぶ。
「俺と鵜目姫はここで幸せに暮らしてたんだ。幸せだったあの日々…今でも忘れられない」
「鬼八さん…」
畳が敷かれた6畳ほどの部屋には床が敷いてあり、そこに息吹を下ろすと鬼八はすぐに手を離した。
「息吹姫…俺の記憶をもっと見たい?」
「…鵜目姫とは両想いだったんだね。私の知ってる話では鬼八さんは鵜目姫を攫って…」
「攫ってない。俺たちは偶然出会って、惹かれ合って…でも俺が鬼だから夫婦になるには反対されるだろうと思って2人で里から逃げたんだ。全然違うよ」
――主さまは強引に触れてくるけれど、鬼八は違う。
誠実な態度でやわらかい笑みを浮かべている鬼八はとても魅力的で、鵜目姫でなくとも女ならば見惚れるだろうと思わざるを得ない魅力に溢れていた。
「じゃあ…悪鬼っていうのも…」
「俺に尋常じゃない力があるのは確かだよ。だから胴体も手足も首もばらばらにされた。ほら、見て」
着物の胸元をはだけさせると、鬼八の首には横線が走っていた。
さらに腕を抜いて上半身をさらしたその均整な身体には両の上腕部分にも横線が走っている。
つい息を呑むと、鬼八は少し意地悪気な表情を浮かべて息吹に顔を近付けた。
「下も見たい?」
「え?!鬼八さんったら!やだ!」
布団を頭から被って身体を隠すと、鬼八がやわらかく抱きしめてきた。
「俺にこうして抱きしめられたこと…俺と毎夜共に眠ったこと…俺と…」
怖ず怖ずと顔を出した息吹のすぐ傍には鬼八の端正な美貌があって、指を絡めてきたその優しさに身体の奥底から何かが吹き上げてくる。
「俺とこうして数えきれないほど唇を重ねたこと…思い出して」
「鬼八さ、ん…」
――やわらかく、限りなく優しく重なってきた唇。
途端、息吹の頭に主さまの姿が浮かんだ。
主さまもこうして自分を求めて、強引ながらもあの男に求められるととても嬉しかった――
だが、鬼八が求めているのは鵜目姫だ。
自分ではない。
「主さ…っ」
名を呼ぶ。

