「想いを伝えたのか?」
「…伝えてない」
「では何故息吹は泣いていた?」
「だからもう好きにしろ、と言っただけだ」
…埒が明かない。
先程から一問一答の状態で、主さまは不器用そのもの。
――晴明は主さまの前に座ると頬をかきながらため息をついた。
「道長に嫁ぎたいと言ったりしたからか?」
「…雪男が息吹に求婚した」
「ほう?それは問い質さねばならぬな。よし、ちょっと行って…」
息吹の父として聞き捨てならないことを聴いた晴明が腰を上げようとすると、今まで上目遣いで晴明を見ていた主さまがふいっと庭に目を遣った。
「今雪男をここへ呼んだら…あいつを殺してしまうかもしれない」
「だが息吹が色よい返事をしたわけではあるまい。これは驚いたな。てっきり息吹は……いや、なんでもない」
相変らず意地悪さ加減の半端ない晴明はそこで言葉を止めて主さまを焦らしながら湯呑を口に運んだ。
「…なんだ、続きを言え」
「いやいや、どうやら気のせいだったようだし蒸し返しても詮無いこと。とにかく落ち着け。息吹はここからは出て行けぬ」
「…あれにどうやってこの想いを伝えれば響くのか、わからない。くそ…っ」
「純情な男だな。聞いていて恥ずかしくなる」
…それはお互い様だったのだが。
――その頃息吹はやみくもに森の中を歩きながら、主さまを詰っていた。
「馬鹿!やっぱり私は主さまの玩具で、きまぐれで…」
だんだんものすごく悲しくなってきて立ち止まった。
しん――
気が付けば耳鳴りがするほど鳴いていた蝉の声が聴こえなくなり、森は静寂に包まれていた。
「鵜目姫」
「え…」
右横から突然声をかけられて身構えながら右を向くと、そこには風貌が主さまにそっくりな男が小さな笑顔を浮かべて立っていた。
…髪が短い。
違いはそれだけに見える。
「あ、あの…鬼八、さん…?」
「そうだよ。迎えに来たんだ。俺と一緒にここから出て行こう」
長い腕がすう、と伸ばされて、優しそうな鬼八に向かって勝手に脚が動いてしまう。
鬼八に、絡め取られる。
「…伝えてない」
「では何故息吹は泣いていた?」
「だからもう好きにしろ、と言っただけだ」
…埒が明かない。
先程から一問一答の状態で、主さまは不器用そのもの。
――晴明は主さまの前に座ると頬をかきながらため息をついた。
「道長に嫁ぎたいと言ったりしたからか?」
「…雪男が息吹に求婚した」
「ほう?それは問い質さねばならぬな。よし、ちょっと行って…」
息吹の父として聞き捨てならないことを聴いた晴明が腰を上げようとすると、今まで上目遣いで晴明を見ていた主さまがふいっと庭に目を遣った。
「今雪男をここへ呼んだら…あいつを殺してしまうかもしれない」
「だが息吹が色よい返事をしたわけではあるまい。これは驚いたな。てっきり息吹は……いや、なんでもない」
相変らず意地悪さ加減の半端ない晴明はそこで言葉を止めて主さまを焦らしながら湯呑を口に運んだ。
「…なんだ、続きを言え」
「いやいや、どうやら気のせいだったようだし蒸し返しても詮無いこと。とにかく落ち着け。息吹はここからは出て行けぬ」
「…あれにどうやってこの想いを伝えれば響くのか、わからない。くそ…っ」
「純情な男だな。聞いていて恥ずかしくなる」
…それはお互い様だったのだが。
――その頃息吹はやみくもに森の中を歩きながら、主さまを詰っていた。
「馬鹿!やっぱり私は主さまの玩具で、きまぐれで…」
だんだんものすごく悲しくなってきて立ち止まった。
しん――
気が付けば耳鳴りがするほど鳴いていた蝉の声が聴こえなくなり、森は静寂に包まれていた。
「鵜目姫」
「え…」
右横から突然声をかけられて身構えながら右を向くと、そこには風貌が主さまにそっくりな男が小さな笑顔を浮かべて立っていた。
…髪が短い。
違いはそれだけに見える。
「あ、あの…鬼八、さん…?」
「そうだよ。迎えに来たんだ。俺と一緒にここから出て行こう」
長い腕がすう、と伸ばされて、優しそうな鬼八に向かって勝手に脚が動いてしまう。
鬼八に、絡め取られる。

