半ば混乱状態だったが、どれほど主さまが自分を求めて来ようとも、“2番”になるつもりはない。
だから近付いて来る主さまの顔の頬を思いきり押して、それ以上近付いてくるのを拒んだ。
「私は誰かの“1番”になりたいの!2番はいやなんだから!主さまは私を2番にするつもりなんでしょ?離れて!」
「誰が誰を2番にするつもりだと言った?また離れるつもりなら何故戻ってきたんだ!」
――ちりん。
主さまの髪紐の鈴が音を立てた。
部屋の中は静寂に包まれ、息吹は反論できずに頬にさらりとかかる主さまの髪を引っ張った。
「私の育った町だもん。帰って来たいに決まってるよ。…主さまを追いかけて戻って来たのに。…十六夜さんを追って…」
“十六夜”と名を呼ぶと主さまの瞳が揺れた。
そうだ、この百鬼夜行の王は…幽玄町から逃げ出した自分をなおも心配して、姿を隠して傍に居てくれた妖。
…好きになりかけていた妖。
それを今、伝えておこう。
別れの言葉に代えて。
「私……主さまのことが…」
「……息吹…?」
不安に揺れる眼差しと、別れを告げようとして悲哀に揺れる眼差しがぶつかり合う。
ただその先の言葉をなかなか紡ぐことのできない息吹が泣きそうな顔をすると、主さまが身体を起こした。
「…もういい。お前の好きなようにしろ」
「…私が…お嫁さんに行ってもいいの?」
「俺の言葉など聞くつもりもない奴に何を言っても無駄だ」
――突き放された、と感じた。
どんなに拒否しようとも、主さまなら追ってくるだろうという妙な自信があった。
好きになりかけていた男から拒絶された――
自分から突き放したはずなのに、例えようもなく悲しくなって、手で口を覆いながら部屋を飛び出した。
「…くそっ!」
――部屋にひとり残された主さまが出入り口に向かって思いきり湯呑を投げつけると、それをは割れずに戻ってきた晴明が華麗に掌で受け止めた。
「息吹とすれ違ったぞ。何をした」
「何もしてない。もう干渉しない、と言っただけだ」
思いも寄らぬ展開に、晴明の眉が上がった。
だから近付いて来る主さまの顔の頬を思いきり押して、それ以上近付いてくるのを拒んだ。
「私は誰かの“1番”になりたいの!2番はいやなんだから!主さまは私を2番にするつもりなんでしょ?離れて!」
「誰が誰を2番にするつもりだと言った?また離れるつもりなら何故戻ってきたんだ!」
――ちりん。
主さまの髪紐の鈴が音を立てた。
部屋の中は静寂に包まれ、息吹は反論できずに頬にさらりとかかる主さまの髪を引っ張った。
「私の育った町だもん。帰って来たいに決まってるよ。…主さまを追いかけて戻って来たのに。…十六夜さんを追って…」
“十六夜”と名を呼ぶと主さまの瞳が揺れた。
そうだ、この百鬼夜行の王は…幽玄町から逃げ出した自分をなおも心配して、姿を隠して傍に居てくれた妖。
…好きになりかけていた妖。
それを今、伝えておこう。
別れの言葉に代えて。
「私……主さまのことが…」
「……息吹…?」
不安に揺れる眼差しと、別れを告げようとして悲哀に揺れる眼差しがぶつかり合う。
ただその先の言葉をなかなか紡ぐことのできない息吹が泣きそうな顔をすると、主さまが身体を起こした。
「…もういい。お前の好きなようにしろ」
「…私が…お嫁さんに行ってもいいの?」
「俺の言葉など聞くつもりもない奴に何を言っても無駄だ」
――突き放された、と感じた。
どんなに拒否しようとも、主さまなら追ってくるだろうという妙な自信があった。
好きになりかけていた男から拒絶された――
自分から突き放したはずなのに、例えようもなく悲しくなって、手で口を覆いながら部屋を飛び出した。
「…くそっ!」
――部屋にひとり残された主さまが出入り口に向かって思いきり湯呑を投げつけると、それをは割れずに戻ってきた晴明が華麗に掌で受け止めた。
「息吹とすれ違ったぞ。何をした」
「何もしてない。もう干渉しない、と言っただけだ」
思いも寄らぬ展開に、晴明の眉が上がった。

