どうせ自分は主さまの気まぐれで育てられただけなのだから、気にするだけ無駄だ。
――自分にそう言い聞かせた息吹は不機嫌な主さまには声をかけずに机の前に座るとお茶を一気飲みした。
「よかった、笑っているね。雪男がそなたを笑顔にさせたのかな」
「はい。雪ちゃんってほんとに優しくて…父様、あのね」
「うるさい。眠いから話すな」
むっとした時晴明がはっと顔を上げて颯爽と立ち上がった。
「父様?」
「どこかで結界が綻んだ。ちょっと行ってくるから息吹は主さまと一緒に居なさい」
「は、はい」
足早に晴明が居なくなり、主さまと2人きりになった息吹は気まずくなって食べかけの雉汁が入った碗を手にした時――
「…何を言われた」
「え?」
「雪男に何を言われた」
突然そう聞いてきた主さまは相変わらず背を向けたままで、先程のことをどう話せばいいのかしばらく悩んだが、主さまもまた父代わり。
隠し事はよくないと考えた息吹はまた碗を置いて俯いた。
「雪ちゃんに“俺のお嫁さんになって”って言われたの。私が死んだ後は雪に戻るんだって。そしていつか一緒に生まれ変わって…」
「お前は俺のものだと言ったはずだぞ」
――なんと我が儘な。
口調は不機嫌そのもので、だが背を向けて表情はわからない。
…どうせ自分を弄ぶつもりなのに、こんな風に独占欲を出されるのは癪に障る。
なので息吹も背を向けて、つんけんとした口調で主さまを非難した。
「雪ちゃんはずっと傍に居てくれるけど、主さまはいつかお嫁さんをもらって血筋を守らなきゃいけないって聞いたもん。私に構わないで」
「…ふざけるな。俺は一生お前を離さないぞ」
「信じない。主さまのきまぐれなことはわかってるんだからもう構わないで。…きゃっ!」
寝転がっていたはずの主さまから手を強く引かれて振り向くと、主さまの切れ長の瞳の中には青白い炎が揺れていて、思わず息を呑んだ。
「お前の意見など聞いてない。離れて行くなど絶対に許さない。…思い知らせてやる」
――視界が急転した。
見えるのは天井と自分を覗き込んでいる主さまの顔――
――自分にそう言い聞かせた息吹は不機嫌な主さまには声をかけずに机の前に座るとお茶を一気飲みした。
「よかった、笑っているね。雪男がそなたを笑顔にさせたのかな」
「はい。雪ちゃんってほんとに優しくて…父様、あのね」
「うるさい。眠いから話すな」
むっとした時晴明がはっと顔を上げて颯爽と立ち上がった。
「父様?」
「どこかで結界が綻んだ。ちょっと行ってくるから息吹は主さまと一緒に居なさい」
「は、はい」
足早に晴明が居なくなり、主さまと2人きりになった息吹は気まずくなって食べかけの雉汁が入った碗を手にした時――
「…何を言われた」
「え?」
「雪男に何を言われた」
突然そう聞いてきた主さまは相変わらず背を向けたままで、先程のことをどう話せばいいのかしばらく悩んだが、主さまもまた父代わり。
隠し事はよくないと考えた息吹はまた碗を置いて俯いた。
「雪ちゃんに“俺のお嫁さんになって”って言われたの。私が死んだ後は雪に戻るんだって。そしていつか一緒に生まれ変わって…」
「お前は俺のものだと言ったはずだぞ」
――なんと我が儘な。
口調は不機嫌そのもので、だが背を向けて表情はわからない。
…どうせ自分を弄ぶつもりなのに、こんな風に独占欲を出されるのは癪に障る。
なので息吹も背を向けて、つんけんとした口調で主さまを非難した。
「雪ちゃんはずっと傍に居てくれるけど、主さまはいつかお嫁さんをもらって血筋を守らなきゃいけないって聞いたもん。私に構わないで」
「…ふざけるな。俺は一生お前を離さないぞ」
「信じない。主さまのきまぐれなことはわかってるんだからもう構わないで。…きゃっ!」
寝転がっていたはずの主さまから手を強く引かれて振り向くと、主さまの切れ長の瞳の中には青白い炎が揺れていて、思わず息を呑んだ。
「お前の意見など聞いてない。離れて行くなど絶対に許さない。…思い知らせてやる」
――視界が急転した。
見えるのは天井と自分を覗き込んでいる主さまの顔――

