少し無口になって、少し笑顔を無くしてしまった息吹のことが心配でたまらない。
――先に息吹が死ぬことくらいわかっている。
わかっているけれど、今この一瞬一瞬を共に過ごせる喜びは、生涯忘れることはないだろう。
…人だとわかっていても、愛する気持ちは止められない。
そうだ、息吹に伝えよう。
愛している、と。
「はい主さま。熱いから火傷しないでね」
「ああ。…息吹、隣で食え」
「まあそれ位は許してやろう。美味しいよ、息吹は料理の腕も良いな」
「書物を読む時間は沢山あったから沢山練習したの。母様にも教えてもらおうと思って…」
そこで息吹が碗を両手で包みながら膝に置くと俯いてしまった。
「息吹、どうしたんだい?」
「父様…私…道長様に嫁ごうかな」
――突然息吹がそう言って顔を上げると、明らかに無理矢理笑っているという笑顔を作った。
「早くお嫁さんに行って、子供も沢山生んで、幸せになりたいの。…父様、道長様に連絡を取って下さい。…お願い」
「…息吹…」
なんということだ。
息吹が完全に人の生活に戻ってしまう――
晴明の傍で暮らしている時は式神が居たり庭に妖が居たりで、妖とは切っても切れない関係だったのに。
息吹が、離れて行ってしまう――
「…そなたがそう望むのならば、私は反対しないよ。道長は男気があるし家柄も良い。そなたを幸せにしてくれるだろう」
「はい。あ、雉鍋すっごく美味しい!主さまちゃんと食べてる?私、雪ちゃんのところに持って行って来ますね」
あらかじめ先に冷ましていた雪男の分の入った碗を手に息吹が部屋を出て行く。
…主さまの身体からゆらゆらと青白い炎が揺れているのが見えて、晴明は碗を机に置くと何度も眉間を押した。
「…十六夜」
「あれは…俺たちから離れていくつもりなのか。老いる姿を見せたくないからか?そんなこと、気にせずとも…っ」
「気になるだろう。…私も忘れていた。あの子が…あんなに思い詰めるとは…」
さすがの晴明も参っていた。
息吹が嫁いでしまう。
息吹が、手の届かない所へ――
――先に息吹が死ぬことくらいわかっている。
わかっているけれど、今この一瞬一瞬を共に過ごせる喜びは、生涯忘れることはないだろう。
…人だとわかっていても、愛する気持ちは止められない。
そうだ、息吹に伝えよう。
愛している、と。
「はい主さま。熱いから火傷しないでね」
「ああ。…息吹、隣で食え」
「まあそれ位は許してやろう。美味しいよ、息吹は料理の腕も良いな」
「書物を読む時間は沢山あったから沢山練習したの。母様にも教えてもらおうと思って…」
そこで息吹が碗を両手で包みながら膝に置くと俯いてしまった。
「息吹、どうしたんだい?」
「父様…私…道長様に嫁ごうかな」
――突然息吹がそう言って顔を上げると、明らかに無理矢理笑っているという笑顔を作った。
「早くお嫁さんに行って、子供も沢山生んで、幸せになりたいの。…父様、道長様に連絡を取って下さい。…お願い」
「…息吹…」
なんということだ。
息吹が完全に人の生活に戻ってしまう――
晴明の傍で暮らしている時は式神が居たり庭に妖が居たりで、妖とは切っても切れない関係だったのに。
息吹が、離れて行ってしまう――
「…そなたがそう望むのならば、私は反対しないよ。道長は男気があるし家柄も良い。そなたを幸せにしてくれるだろう」
「はい。あ、雉鍋すっごく美味しい!主さまちゃんと食べてる?私、雪ちゃんのところに持って行って来ますね」
あらかじめ先に冷ましていた雪男の分の入った碗を手に息吹が部屋を出て行く。
…主さまの身体からゆらゆらと青白い炎が揺れているのが見えて、晴明は碗を机に置くと何度も眉間を押した。
「…十六夜」
「あれは…俺たちから離れていくつもりなのか。老いる姿を見せたくないからか?そんなこと、気にせずとも…っ」
「気になるだろう。…私も忘れていた。あの子が…あんなに思い詰めるとは…」
さすがの晴明も参っていた。
息吹が嫁いでしまう。
息吹が、手の届かない所へ――

