堪えきれなくなった晴明が笑い声を上げた。
「道長はいい男だと思うが。きっと生涯そなたを守ってくれるぞ」
「…俺だって…」
ものすごく小さな声で反論してこようとした主さまを肩越しに振り返ると、ぷいっと顔を背けた。
「父様もとっても長生きなんだよね?じゃあやっぱり私だけがおばあちゃんになって早く死んじゃうんだね。寂しいな」
――つい本音を漏らした後、晴明も主さまも黙ってしまったので、慌てた息吹は切った山菜を鍋にどさどさと入れながらまくし立てた。
「で、でも私が好きな殿方に嫁げば父様や主さまとも一緒に居れなくなるし、主さまの言う通り私も早く親離れできるように頑張ります。…手…洗ってくるねっ」
沈黙に耐えきれず台所側の勝手口から外に飛び出して大きく息を吸って、心を落ち着けた。
そうだ、妖の住む幽玄町にずっと居るわけにもいかないのだろう。
今は主さまたちと楽しく暮らせていてもいつかは絶対に人間としての寿命が来て、自分は呆気なく死んでしまうのだから。
「…忘れちゃってた…。私、人だった…」
主さまたちと一緒に居るとつい忘れてしまう。
この時が永久に続くのではないだろうか、と思ってしまう。
そんなはずないのに。
「息吹」
振り返ると、主さまと晴明が少し困った顔をして立っていた。
「ごめんなさい、手を洗いたかったんだけど…」
先に死んでしまう怖さ。
主さまたちにずっと自分のことを覚えていてほしいと思う願い。
一気にそれが噴き出してしまった息吹はその場にうずくまると両手で顔を覆った。
「息吹…先のことは考えないでほしい。そなたは私たちとずっと一緒に居るのだ。ずっとだよ」
「…はい」
「…我が儘娘が。仕方ない、俺があやしてやろう」
「え…、きゃっ!」
急に主さまから頭上より高く抱き上げられて、空が近くなった。
快晴の空を見ていると悩みなど吹っ飛んでしまう気がした。
「言っておくが息吹に触れるのは今だけだからな」
「…ちっ」
皆と居れるいつも通りの暮らしを。
それだけが、息吹の願い。
「道長はいい男だと思うが。きっと生涯そなたを守ってくれるぞ」
「…俺だって…」
ものすごく小さな声で反論してこようとした主さまを肩越しに振り返ると、ぷいっと顔を背けた。
「父様もとっても長生きなんだよね?じゃあやっぱり私だけがおばあちゃんになって早く死んじゃうんだね。寂しいな」
――つい本音を漏らした後、晴明も主さまも黙ってしまったので、慌てた息吹は切った山菜を鍋にどさどさと入れながらまくし立てた。
「で、でも私が好きな殿方に嫁げば父様や主さまとも一緒に居れなくなるし、主さまの言う通り私も早く親離れできるように頑張ります。…手…洗ってくるねっ」
沈黙に耐えきれず台所側の勝手口から外に飛び出して大きく息を吸って、心を落ち着けた。
そうだ、妖の住む幽玄町にずっと居るわけにもいかないのだろう。
今は主さまたちと楽しく暮らせていてもいつかは絶対に人間としての寿命が来て、自分は呆気なく死んでしまうのだから。
「…忘れちゃってた…。私、人だった…」
主さまたちと一緒に居るとつい忘れてしまう。
この時が永久に続くのではないだろうか、と思ってしまう。
そんなはずないのに。
「息吹」
振り返ると、主さまと晴明が少し困った顔をして立っていた。
「ごめんなさい、手を洗いたかったんだけど…」
先に死んでしまう怖さ。
主さまたちにずっと自分のことを覚えていてほしいと思う願い。
一気にそれが噴き出してしまった息吹はその場にうずくまると両手で顔を覆った。
「息吹…先のことは考えないでほしい。そなたは私たちとずっと一緒に居るのだ。ずっとだよ」
「…はい」
「…我が儘娘が。仕方ない、俺があやしてやろう」
「え…、きゃっ!」
急に主さまから頭上より高く抱き上げられて、空が近くなった。
快晴の空を見ていると悩みなど吹っ飛んでしまう気がした。
「言っておくが息吹に触れるのは今だけだからな」
「…ちっ」
皆と居れるいつも通りの暮らしを。
それだけが、息吹の願い。

