山菜の入った籐の籠を無理矢理主さまに持たせた晴明は、しっかりと息吹の手を握って離さなかった。
「晴明、そろそろ子離れをした方がいいぞ」
「ほう?それはどういう趣旨の忠告だ?悪いが親とは子離れせぬ生き物だ。私は一生息吹の傍から離れぬぞ」
…全くとんでもない男を敵に回してしまった。
晴明を刺激してしまった主さまは完全に不利な状態だったが、晴明に手を引かれながら息吹が何度もちらちらと振り返る。
意識させることには成功したが、なにぶんあの父代わりの男がいけない。
「雪ちゃんの分だけ冷ましておかなきゃ」
「ふむ、それは雪男も喜ぶだろうな。息吹は優しい子だね」
「えへへ」
宿へ戻って台所へ行くと息吹は山菜を切り、晴明が雉の羽を毟りながら何もせずに腕を組んで立っている主さまに目を細めた。
「そなたは何もせぬのか」
「ああ。俺は食う専門だ」
「なるほど、言い得て妙だ。そなたは女を食う専門だったな」
「…」
息吹がまたちらっと目線を寄越してきつつぷいっと顔を逸らしたので、内心焦りつつ近寄ろうとした時――
「主さま…」
ねっとりとした声が背後からかかったので振り返ると、着物を大胆に着崩した絡新婦が立っていた。
熱っぽい瞳で主さまを見つめて近寄ろうとしたが、晴明が唇に人差し指を当てて微笑しながら術をかけようとしたので、それ以上近寄ることができない。
「なんだ」
「私もお手伝いします」
「いや、いい。それ以上近寄ると晴明に滅されるぞ」
――色気満点の絡新婦が必死に主さまの気を引こうとしている様は息吹の胸を少しだけちりりと焦がれさせていた。
…かつての情人だとはわかっていても、主さまが果たして自分に対して本気で“抱きたい”と言っているのかわからない。
「息吹、そのまま切り進むと指が無くなってしまうよ」
「わ、考え事しちゃって…」
考え事をしながら山菜を切っていたので危うく指を落としそうになってため息をつくと、晴明が笑った。
「色男を好きになると苦労するぞ。父様は道長を勧めるが」
「道長様?冗談でしょ?」
…哀れなり。
「晴明、そろそろ子離れをした方がいいぞ」
「ほう?それはどういう趣旨の忠告だ?悪いが親とは子離れせぬ生き物だ。私は一生息吹の傍から離れぬぞ」
…全くとんでもない男を敵に回してしまった。
晴明を刺激してしまった主さまは完全に不利な状態だったが、晴明に手を引かれながら息吹が何度もちらちらと振り返る。
意識させることには成功したが、なにぶんあの父代わりの男がいけない。
「雪ちゃんの分だけ冷ましておかなきゃ」
「ふむ、それは雪男も喜ぶだろうな。息吹は優しい子だね」
「えへへ」
宿へ戻って台所へ行くと息吹は山菜を切り、晴明が雉の羽を毟りながら何もせずに腕を組んで立っている主さまに目を細めた。
「そなたは何もせぬのか」
「ああ。俺は食う専門だ」
「なるほど、言い得て妙だ。そなたは女を食う専門だったな」
「…」
息吹がまたちらっと目線を寄越してきつつぷいっと顔を逸らしたので、内心焦りつつ近寄ろうとした時――
「主さま…」
ねっとりとした声が背後からかかったので振り返ると、着物を大胆に着崩した絡新婦が立っていた。
熱っぽい瞳で主さまを見つめて近寄ろうとしたが、晴明が唇に人差し指を当てて微笑しながら術をかけようとしたので、それ以上近寄ることができない。
「なんだ」
「私もお手伝いします」
「いや、いい。それ以上近寄ると晴明に滅されるぞ」
――色気満点の絡新婦が必死に主さまの気を引こうとしている様は息吹の胸を少しだけちりりと焦がれさせていた。
…かつての情人だとはわかっていても、主さまが果たして自分に対して本気で“抱きたい”と言っているのかわからない。
「息吹、そのまま切り進むと指が無くなってしまうよ」
「わ、考え事しちゃって…」
考え事をしながら山菜を切っていたので危うく指を落としそうになってため息をつくと、晴明が笑った。
「色男を好きになると苦労するぞ。父様は道長を勧めるが」
「道長様?冗談でしょ?」
…哀れなり。

