主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-【完】

“かっこよく見えた”と言われた主さまは、最高に照れた。


「ねえ父様、誰?誰なの?私の知ってる人?」


「これ以上言ってしまうと面白くないから、幽玄町へ帰るまでの宿題としよう。いいね?」


「意地悪っ」


晴明を詰り、胸を叩いた息吹はずっと視線を感じていた。


…鬼八ではない。

主さまだ。


「…親子と言えどお前たちは義理だ。寝るなら俺も一緒に寝る」


「ふむ、一理あるが娘に手など……ああそうか、娘のような息吹に手を出そうなどという不届き者も居るくらいだからな」


主さまと息吹の頬が赤くなり、そういう反応を待っていた晴明はまたにやりと笑って、急に柏手を打った。


「きゃぁ……っ」


部屋の外から悲鳴が聞こえて走り去る音がしたので息吹が不安そうな表情を浮かべると、晴明は肩を竦めて寝転び、天井の人の顔のような染みを見つめた。


「蜘蛛を追い払っただけだよ。さて父様と寝ようか」


「はいっ」


…嬉しそうな返事をした息吹が押入れからもう1組布団を引っ張り出すと、真ん中に鎮座。


「父様と、私と……父様みたいな主さまと3人で寝れるなんて嬉しいっ」


「…俺のことは2度とそう呼ぶなと言ったはずだぞ」


――だがそう念じなければならないほどに主さまを意識してしまっている息吹は不満を言ってきた主さまを無視してころんと横になった。


「息吹が真ん中か。私が寝ている間に悪さをするつもりでは…」


「お前はどれだけ俺を疑うつもりなんだ。こんながりがりで胸も大してない餓鬼に悪さなどするわけがない」


「ひどい!私だっていつかは母様みたいな胸になってやるんだから!」


「ほうほう?身体の線は息吹程に細いが、ふむふむそうか。胸がねえ…ふふふ」


突然笑い出した晴明も息吹の隣に寝転ぶと、ちゃっかり左隣を陣取った主さまはにたりと笑ってぽつり。


「俺は山姫の裸を見たことがある」


「え!?」


「…なに?具体的に話してもらおうか。いつどこでどういう状況でだ?」


「眠たくなった。話しかけるな」


…悶々。


息吹と晴明は顔を見合わせて、同時に一言。


「根性悪」