主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-【完】

2人は話しながら酒を飲んでいた。


指2本分程そっと襖を開けるとずっとこちらを見ていたのか、晴明と目が合った。


「おや息吹、起きていたのかい?さあ、父様の膝においで」


晴明にはいつまでも子供扱いをされるが、それは嫌いではない。


「父様…本当に大丈夫ですよね?」


「ああ、もちろんだとも。ん?酒を飲みたいのか?少しだけだからね」


…主さまは目を合わせようとせずにどんちゃん騒ぎをしている外を眺めていた。


むかっとした息吹は御猪口に並々と酒を注ぐと一気に呷って、顔を真っ赤にさせた。


「これ、それは強い酒だよ。おや?どうして主さまの顔も赤いのかな?どれ、熱を測ってやろうか」


晴明が火照った主さまの額に手をあてようとすると振り払われて、ひと睨み。


「俺に触れるな」


「やけにつんけんしているねえ」


――互いに熱に浮かされたような先程の出来事を思い出してまた顔を真っ赤にさせると、


息吹を膝に乗せていた晴明は訳知り顔で何度も頷いて、主さまの前でわざと息吹をべたべたと触った。


「主さまと同室はやはり危険だな。ちなみに今の雪男も危険だから、今夜は父様と寝よう。いやかい?」


「い、いえっ、嬉しいですっ。父様大好きっ」


“大好き”と言うと主さまが横目で睨んできた。


…その言葉を欲しがっていることは先程知ったが、告白は、されていない。


求められているのは身体だけか?

貧相だのがりがりだの文句ばっかり言うくせに――


「父様、主さまが睨んできます」


「ん?おい、私の娘を睨むな。息吹の前で恥ずかしい格好にされたいか?」


「なんだと?俺とやるつもりか?」


なんだか不穏な空気になってしまって、立ち上がると障子と戸を開けて外に出て輪になっていた妖たちに手を振った。


「みんなー、私も入れて!」


「おー、入って来い!」


大中小様々で様々な種族の妖たちは、全員が主さまを慕って名を渡し、百鬼夜行に加わった。

各地に名を残すほどの大物揃いがこぞって息吹を囲んで甘やかしている姿を見た晴明は、くすりと笑った。


鬼八の怨念など、皆で吹き飛ばしてやる。