主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-【完】

「一足遅かったか…」


晴明たちが手足塚に着いた時はすでに時遅しで、手足を封じていた大きな石は真っ二つに割れていた。


「まずいな、完全復活してしまったか」


「晴明様…!」


「鬼八の怨念の後を探ってくる」


夜行が馬を駆って彼方へと去って行き、心底不安になった息吹は雪男にしがみついた。


「雪ちゃん怖いよ…!」


「…大丈夫だ息吹。俺たちが全員で守ってやるから。晴明、宿に戻って奴を待ち構えた方がいいんじゃ…」


「そうだな、百鬼が散り散りになっては意味がない。おびき出す作戦としよう」


懐から人型の式神を取り出して何事か唱えて息を吹き込むと鳥の姿になり、主さまの居る胴塚へと一目散に飛び立って行き、


息吹は先ほどから耳鳴りを訴えて、ずっと耳を塞いでいた。


「頭が痛い…」


「すぐ戻ろうな」


――ずっとずっと、耳の奥で鬼八の声が響いていた。


『鵜目姫…鵜目姫…』


何度もそう呼ばれているうちに本当に自分が鵜目姫になったような気がして、虚ろな瞳になった息吹に気付いた晴明が息吹を牛車に乗り込ませると、背中を強く叩いた。


「破っ!」


「………父、様…?」


「鬼八め、さすがは強力だな。父様が抱きしめていてあげるからね」


「はい…。父様…ずっと耳鳴りがするんです。鬼八さんが呼んでる…」


――このままでは本当に息吹が奪い去られてしまう――


愛娘の危機に本腰を上げた晴明は牛車を飛ばすと宿に着いてすぐに、大がかりな結界を張った。


「場所はもう知られているだろうが、全力で迎え撃ってやろう。この結界の中に居れば何も怖くはないからね」


全幅の信頼を置いている晴明からそう言われて安心した息吹が畳にころんと寝転がった時、主さまたちが帰ってきた。


「胴塚は……ああ、その顔は駄目だったか」


「そっちもか。ちっ、鬼八を甘く見ていた。大人しくしていたと思ったらこの時を待っていたのか」


「主さま…」


涙目の息吹を抱き起すと髪を撫でてやりながら、細い腰を抱き寄せた。


「俺に任せろ。今度は封印ではなく、細切れにしてやる」


息吹は渡さない。