それからというものの、息吹の回りには晴明と雪男、そして主さまという鉄壁の布陣が常に敷かれて、絡新婦が近付く隙を与えなかった。
「敵は鬼八だけだと思っていたが…余計な手間だねえ」
「俺のせいじゃない。あれが勝手に…」
「主さまの恋人だったんでしょ?…今もなの?」
――庭に出て、暮れて行く高千穂の荘厳でいて壮大な山々の生命の息吹を感じながら問うと、主さまはそれだけは頑強に認めなかった。
「違う。恋人など今まで作ったことはない」
「ふうん。主さまって女の人に好かれそうな綺麗な顔してるのにね」
雪男の袖を握りながら濃緑を楽しんでいる息吹の言葉に先頭を歩いていた主さまの顔がみるみる赤くなっていく。
隣を歩いていた晴明が噴き出しそうになると、肩でぶつかってきながら引き返し、2人の手を引き離した。
「何すんだよっ」
「お前じゃ心許ない。俺の隣に居ろと言ったろうが」
「そうだよ息吹。私と主さまの間に居なさい」
「はい」
――息吹の全幅の信頼をどうしても勝ち取りたい主さまは頭の中で様々な作戦を練ろうとしていたが、どうにも先程の息吹の裸が脳裏をちらついて集中できない。
当の本人はやはり寝ぼけていたらしくそれを覚えていないようで、
それも不幸中の幸いと言えようか…あの光景をそっと思い出の引き出しに閉まっておいた。
「父様、温泉が湧いてるんです。一緒に入りませんか?」
「いいねえ。父様と入りたいのかい?」
「はいっ」
「しかし年頃の娘と一緒に入るのは気が引けるねえ」
わざとらしく晴明が渋り、息吹が手をぐいぐい引っ張って可愛らしい顔を懇願の色に染めながら説得を続けている。
それを白々しく雪男と見ていると…
「さっきは主さまが入ってきたんです。だから父様も…」
「主さまと?これは聞き捨てならないね。私の娘に何かしたのではあるまいな」
「そうだぞ!息吹になんかしたんだろ、助平!」
雪男も非難の声を上げて、息吹はそこではたと背中の唇の痕を思い出して後ずさった。
「や、やっぱりいいです!」
「いや、一緒に入ろうか」
にやり。
「敵は鬼八だけだと思っていたが…余計な手間だねえ」
「俺のせいじゃない。あれが勝手に…」
「主さまの恋人だったんでしょ?…今もなの?」
――庭に出て、暮れて行く高千穂の荘厳でいて壮大な山々の生命の息吹を感じながら問うと、主さまはそれだけは頑強に認めなかった。
「違う。恋人など今まで作ったことはない」
「ふうん。主さまって女の人に好かれそうな綺麗な顔してるのにね」
雪男の袖を握りながら濃緑を楽しんでいる息吹の言葉に先頭を歩いていた主さまの顔がみるみる赤くなっていく。
隣を歩いていた晴明が噴き出しそうになると、肩でぶつかってきながら引き返し、2人の手を引き離した。
「何すんだよっ」
「お前じゃ心許ない。俺の隣に居ろと言ったろうが」
「そうだよ息吹。私と主さまの間に居なさい」
「はい」
――息吹の全幅の信頼をどうしても勝ち取りたい主さまは頭の中で様々な作戦を練ろうとしていたが、どうにも先程の息吹の裸が脳裏をちらついて集中できない。
当の本人はやはり寝ぼけていたらしくそれを覚えていないようで、
それも不幸中の幸いと言えようか…あの光景をそっと思い出の引き出しに閉まっておいた。
「父様、温泉が湧いてるんです。一緒に入りませんか?」
「いいねえ。父様と入りたいのかい?」
「はいっ」
「しかし年頃の娘と一緒に入るのは気が引けるねえ」
わざとらしく晴明が渋り、息吹が手をぐいぐい引っ張って可愛らしい顔を懇願の色に染めながら説得を続けている。
それを白々しく雪男と見ていると…
「さっきは主さまが入ってきたんです。だから父様も…」
「主さまと?これは聞き捨てならないね。私の娘に何かしたのではあるまいな」
「そうだぞ!息吹になんかしたんだろ、助平!」
雪男も非難の声を上げて、息吹はそこではたと背中の唇の痕を思い出して後ずさった。
「や、やっぱりいいです!」
「いや、一緒に入ろうか」
にやり。

