主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-【完】

少し不機嫌になった晴明が烏帽子を奪い返して膝に置くと、晴明をやり込める機会の滅多にない主さまは調子に乗って隣に移動すると肩を抱いた。


「俺はお前の父代わりだぞ。お前が誰を気にかけているか位はお見通しだ」


「ほう?では山姫をそなたから強奪しても良いと?」


――意外と素直に想いを認めた晴明は表情も変えずに茶を口にして、逆に主さまを唖然とさせた。


「やっぱりそうか。いつからだ?半分人間のお前は精を吸い尽くされてしまうぞ」


「それはそれで本望としようか。山姫ほどの美女ならば男なら誰でも望むだろう?」


…やり込めるつもりが逆にやり込められる形になってしまった主さまがぐうの音も出ずにいると…


「晴明様の声がする…」


息吹が両膝と両脚を畳につきながらもそもそと起きて来た。


帯が緩んでいて、胸元がちらり。


「!!」


「これ、浴衣を整えなさい。父様はそんなだらしない子に育てたつもりはないよ」


――寝ぼけているのかとろんとした表情の色っぽい息吹に何も感じないのか、晴明がそう注意すると息吹は帯を一旦外して晴明に差し出した。


…その間、主さまが座っている所からも胸だけではなく全てが見えていた。


「せ、せ、晴明…」


「なんだ上せそうな顔をしているぞ。息吹を襲われてはたまらぬ、あっちに行っていろ」


――指摘された通り、浴衣も脱いでしまって全裸に近い状態の息吹の傍に居るのは、まずい。…非常に、まずい。

後ずさりはしたが目は息吹の身体に吸い付いたまま離れず、晴明が懐から人型の式神を取り出すと何事か唱えて主さまに向かって投げた。

するとそれが目封じの役目をして、晴明の限りなく優しい声が耳に入ってきた。


「父様が帯を締めてやろう。全く…いつまで子供でいるつもりだい?父様も恋をしたい盛りなんだよ」


「父様は、ずっと父様だもん…」


…あんな風に慕われたいが、もう2度と息吹から“父様”と呼ばれたくない主さまは目封じをされて息吹の姿はもう見えないと言えど、

回想だけで大変なことになりそうになって、鼻を押さえながら床を敷いてある部屋に移動すると襖を閉めた。


「やばい…」


自分が。