主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-【完】

「やあ、待たせたかな?」


息吹と一緒にうとうとしかけていると、棘のある言い方をした男が主さまの腹を脚の指先でかなり強めに突いた。


よくよく忍び足の得意な男の登場に、主さまは髪をかき上げながらむくりと起き上がった。


「晴明…意外と遅かったな」


「これでも急がせたんだぞ。こうなることを恐れていたが…一歩遅かったのか?」


「…抱いてはいないぞ」


「抱いてはいないがそれ相応のことをしたと思しき顔をしているぞ。淡泊な面をしておいてそなたは意外と色ぼけだからな」


「…お前もだろうが」


――つまりは似たような顔をしているので、それ以上の言い合いはやめて2人で息吹の寝顔を見つめて先程の状況を説明した。


「ここ数百年大人しくしていたと思ったら力を蓄えていたのか。息吹が起きたらまず首塚へ。あれの封印が解けるとまずいことになる」


「わかっている」


とはいってもまだ夕暮れではないので連れてきた百鬼たちはまだ起きて来る気配はなく、部屋の前で座り込み状態の絡新婦を揶揄した。


「まだあの女と続いているのか?息吹の父代わりとしては女にだらしない男の元へ嫁にやるわけにはゆかぬ。けりをつけて来い」


「絡新婦とはここへ来た時に肌を重ねる程度の間柄だ。…何が不満だ?」


「いやいや、そなたは天然ぼけでもあったな。とにかく息吹を嫁に望んでいるわけではないとわかったから、私としては収穫があった。ではあれをああして…」


早速主さまいじめにかかろうとした晴明は顎に手を添えて楽しそうに笑っていると、

仕返しをしてやろうと思った主さまは片膝を立てて身を乗り出しながら、常々思っていたことを口にした。


「で、俺の屋敷に寄ったんだろう?山姫とは話をしたか?」


「おや?何故わかった?女独り屋敷へ置いて行くのだから気にかかるだろう。で?何故そなたは笑っているのだ?」


晴明の烏帽子をひょいと奪い取ると気まぐれにそれを頭にかぶりながら、煙管を吹かせた。


「いや、別に。山姫は意外と手こずるぞ。手を貸してやってもいいがどうする?」


…晴明がちらりと睨みつけてきた。

それは滅多にあることではなく、

主さま、にやり。