主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-【完】

発熱している晴明の身体を清め、清潔な浴衣を着せて清潔な部屋で寝かしつけるまでは晴明から離れなかった。


今は安らかな寝息が聴こえていて、安心して胸を撫で下ろすと隣でずっと息吹の顔を見ていた帝が細い手首を握って立ち上がらせた。


「…どこへ…行くのですか?」


「私の後宮だ」


「…」


浮かれている帝に対して息吹はほとんど黙ったまま。

手を引かれるがままに帝の私室に連れ込まれ、人払いをすると、ぎゅっと抱きしめられた。


「お、おやめ下さい…!」


「そなたは私の中宮となるのだ。今宵そなたは私のものに…」


――それはつまり、床を共にするということだ。


…この男と?

好きでもなく、むしろ晴明にひどいことをして平然としているこの男と床を?


「…いやです」


「なに?今なんと…」


「私にあなた様の誠意をお見せください。誠意をお見せして頂けたら…」


「ほう、面白いことを言う。そなたは私に何を望んでいるのだ?」


膝に座らされ、優しい笑みを浮かべてはいるが中身は悪鬼の如き帝の瞳をじっと見つめて、第1段階1歩前に踏み出した。


「後宮だけではなく、御所や宝庫なども見て回りたいのです。…私は中宮になるのでしょう?それくらい見識がなくては、皆に馬鹿にされます」


「それもそうだな、よく言ってくれた。皆にはそなたがどこでも出入りできるように言っておこう。だが…床は共にするぞ」


「………はい」


俯いて長い睫毛を震わせた息吹にむらっとした帝が息吹の顎を取って上向かせるといきなり口づけをしてきた。


この時息吹は、思った。

主さまのとは全然違う、と。


「い、や…っ!」


「…つっ」


唇を噛み切られ、滴る血を指で拭い、女子にこうして反抗された経験のない帝は余計に昂って息吹を羽交い絞めにしようとした時――


太鼓のように空気を震わせた大きな音が鳴り響き、帝は障子を開けて外に飛び出た。



「何事だ!」


「怪です!帝、ご退避を」


「来たか…十六夜め!」



涙が零れた。

…来てくれた…