主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-【完】

「父様!こんな…ひどい!!」


晴明は猿轡を噛まされ、手足を縛られて物のように転がされていた。


「父様、息吹です。父様!」


今まで意識を失っていたのか、虚ろな瞳で息吹に目を遣り、そして意識が覚醒すると目を見開いてしきりに何かを訴えていた。


「晴明は半妖故、結界の札を貼っているここしか閉じこめる場所がなかったのだ」


「鍵を開けて下さい、早く!」


だが帝は地下牢に立ち込める異臭を嫌がるようにして扇子を開いて鼻に押し当てていて、

息吹はさらに帝に詰め寄って、言い放った。


「早く、鍵を!」


あまりの迫力に気圧されて、牢番に鍵を開けさせると、首を振る晴明をも無視して牢の中に入り、晴明の身体を起こしてやって、頭を胸に押し抱いた。


「ごめんなさい父様、私のために…。いま猿轡を外しますから」


「それは外しても良いが、手枷と足枷は外れぬようになっている」


帝をまるで無視した息吹は、晴明の腫れた頬を見て涙を零しながら唇を引き結ぶと猿轡を外してやり、晴明を抱きしめた。


「い、ぶき…、ここへ、来ては駄目、だ…」


「もう来てしまいました。父様、私もここに居ます。お傍に居させて下さい」


「それはならぬ。このような汚い場所にそなたを置くわけには…」


「父様がここに閉じこめられるのなら、私もここに居ます。身体がきついでしょう?私にもたれかかっていいよ」


――仲睦まじく寄り添う晴明と息吹に苛立ちを感じた帝は、牢の鍵を閉めさせると宣戦布告をした。


「好きにすればいい。音を上げるならば今のうちだぞ」


「残念ながら私の娘は私に似て強情っ張りなのだ。早く去ね」


ぎろりと晴明を一瞥して帝が去って行き、晴明はようやく息をついて息吹に膝枕をしてもらいながら水の滴る天井を見上げた。


「まさかそなたが来るとは…。想定外だったな」


「え?どういう意味?」


「いやいや…これはこれで面白い、か。十六夜は今頃慌てているだろうな」


晴明が笑った頃――


主さまは忽然と消えた息吹を部屋中探し回り、そして庭に落ちていた式神の紙を見て悟り、飛び出した。