主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-【完】

晴明は平安町の屋敷で最適な暦を読み、そして2日間をかけて契約を結んだ。


12神将と呼ばれる護法善神と結縁し、強力な契約を交わしたことで、意識を失うかのようにして眠っていた。


――これもすべて、一条朝に恨みを晴らすための準備。

母を失い、あの時どれほど慟哭したことか。

父も殺され、主さまの庇護がなければ自分はこうして生きていなかっただろう。


…やはり息吹を主さまの所に避難させておいてよかった、と思った。


12神将と結縁するにはそれ相応の術力と知識が必要になる。

ここ数か月、彼らの気性や特性を調べるために時間を費やし、ようやく全てを整え終えた。


――晴明はこの時完全に油断していた。


屋敷の結界の力が弱まり、侵入してきた者たちの気配にも気付かなかった。


「…居たぞ、晴明だ」


「傷つけず運ぶようにと言われている。縄で縛れ」


契約を完了させた後うつ伏せになって倒れ込んでいた晴明は身体に縄を巻かれ、そこでようやく目が覚めて…鼻を鳴らした。


「…帝の命か?私の屋敷に土足で上がり込んだこと、後悔することになるぞ」


晴明の瞳が一瞬金色に輝き、男たちは鳥肌が立ったが無言で晴明を立たせて牛車に連れ込み、そして天地盤の前に一通の文を置いた。


「私はどうなってもいいが、私の娘には手を出すなよ。あと恐ろしく強い奴が追ってくるから気を付けろ」


「…行け」


牛車が動きだし、御所へと向かう。

晴明は猿轡を噛まされながらものほほんと構えていた。


不安は感じない。

すぐに主さまが追ってくるだろう、後は機会を待てばいい。


牛車に揺られながらまた眠ってしまい、男たちは牛車の上を飛んで幽玄町へ一目散に飛んで行く一羽の白い鳥に気が付かなかった。


――その時息吹は庭の花に水をやっていて、空から飛んできた白い鳥が肩に止まり、嘴に何か文のようなものをくわえていて、桶を置いてそれを受け取った。


「父様の式神だ…どうしたんだろ…」


中を開いてみると…


『晴明は預かった。息吹姫1人で御所へ来なさい』


――息吹は走り出した。


行かなければ。