息吹はずっと台所に居て、広間に向かわなかった。
「息吹?どうしたんだい?」
「え?えっと…私お腹空いてないし…」
「駄目だよ皆で食べるんだ。ああ嬉しいねえ、娘に朝餉を作ってもらえるなんて」
うきうきしている山姫を無下にも出来ず、そわそわと唇を指で撫でながら腕を引っ張られて広間へ行くと…
主さまは背を向けて縁側に座りながら庭の花を見ていた。
なんだかいつもの主さまとは違うように見えて、首を振ると視界に主さまを入れないようにして雪男の隣に座った。
「え…、お、俺の隣?」
「駄目?雪ちゃんと一緒に食べたいの」
かあっと顔を赤くした雪男の様子に気が付いた主さまが腰を上げて息吹の正面に座った。
…見られている。
自分の顔がどんどん赤くなっていくのがわかって、箸を持つ手も震えてしまった。
息吹が俯いたまま顔を上げられずにいると、雪男がひんやりとした手で額に触れてきた。
「顔が真っ赤だぞ?熱はないみたいだけど…」
「そ、そう?ちょっとなんかくらくらするから横になるね」
「…大丈夫なのか?」
主さまが声をかけてきた。
そっと目だけ上げると、男にしては綺麗すぎる主さまの顔は少し心配そうにしていて、またどうしようもなくなって湯呑のお茶を一気飲みすると立ち上がった。
本当にくらっとして身体が傾いで、隣の雪男よりも早く主さまが抱き止めて、固い胸の感触に…思考が止まった。
「…俺が運ぶ。山姫、氷水を用意しろ」
「は、はいっ。息吹、ちょっと待ってな!」
軽々と抱き上げられ、すぐそこには主さまの唇があって、ますます顔が赤くなった息吹をまだ敷かれたままの床に下ろすと、上体を傾けて顔を覗き込んできた。
「様子がおかしいぞ。……あまり寝てないのか?」
「えっ!?ね、寝たよ、朝まで全然目が覚めなかったもん!」
「…そうか。あまり張り切らず少し横になってろ」
「…うん、ありがと」
主さまの黒瞳の中に自分が映っていた。
だが身体を起こして目を逸らすと部屋を出て行った。
「…主さま」
何度も名を呼ぶ。
「息吹?どうしたんだい?」
「え?えっと…私お腹空いてないし…」
「駄目だよ皆で食べるんだ。ああ嬉しいねえ、娘に朝餉を作ってもらえるなんて」
うきうきしている山姫を無下にも出来ず、そわそわと唇を指で撫でながら腕を引っ張られて広間へ行くと…
主さまは背を向けて縁側に座りながら庭の花を見ていた。
なんだかいつもの主さまとは違うように見えて、首を振ると視界に主さまを入れないようにして雪男の隣に座った。
「え…、お、俺の隣?」
「駄目?雪ちゃんと一緒に食べたいの」
かあっと顔を赤くした雪男の様子に気が付いた主さまが腰を上げて息吹の正面に座った。
…見られている。
自分の顔がどんどん赤くなっていくのがわかって、箸を持つ手も震えてしまった。
息吹が俯いたまま顔を上げられずにいると、雪男がひんやりとした手で額に触れてきた。
「顔が真っ赤だぞ?熱はないみたいだけど…」
「そ、そう?ちょっとなんかくらくらするから横になるね」
「…大丈夫なのか?」
主さまが声をかけてきた。
そっと目だけ上げると、男にしては綺麗すぎる主さまの顔は少し心配そうにしていて、またどうしようもなくなって湯呑のお茶を一気飲みすると立ち上がった。
本当にくらっとして身体が傾いで、隣の雪男よりも早く主さまが抱き止めて、固い胸の感触に…思考が止まった。
「…俺が運ぶ。山姫、氷水を用意しろ」
「は、はいっ。息吹、ちょっと待ってな!」
軽々と抱き上げられ、すぐそこには主さまの唇があって、ますます顔が赤くなった息吹をまだ敷かれたままの床に下ろすと、上体を傾けて顔を覗き込んできた。
「様子がおかしいぞ。……あまり寝てないのか?」
「えっ!?ね、寝たよ、朝まで全然目が覚めなかったもん!」
「…そうか。あまり張り切らず少し横になってろ」
「…うん、ありがと」
主さまの黒瞳の中に自分が映っていた。
だが身体を起こして目を逸らすと部屋を出て行った。
「…主さま」
何度も名を呼ぶ。

