唇が離れてゆく。
主さまは壮絶ともいえる色気を発しながら息吹を見下ろした。
――息吹は、ただ動揺していた。
はじめての唇の感触…
しかも唇を奪ったのは、自分のことを嫌っていると思っていた主さまで、
今もただ見つめられている気配がして、瞼が動きそうになるのを必死で耐えた。
そして…帯に手がかかった。
悲鳴を上げてしまえばもう2度と主さまは話しかけてくれないし、自分のことを見てくれないかもしれない。
だが、“食いたい”と言われて喜んだのも事実。
もう駄目だと思った時――
帯から手が離れていき、主さまが左腕に触れて来て、持ち上げられた。
前日、主さまに強く掴まれて痣になった部分で、そこにも唇を押し付けられて、本当に声を上げそうになると、腰を上げてそっと離れていき、隣の部屋へと消えて行った。
「…………主、さま…」
今も唇には感触が残っていて、呼吸を忘れていた息吹は顔に抱き枕を押し付けながら先程の出来事が一体何だったのかを振り返ったが…
とても激しかった口づけ…
あんな風に誰かに求められたのははじめてで、それが主さまであることを喜んだ。
どうして喜んだのかもわからなくて、しばらくの間床の中でじっとして主さまが寝静まったのを確認すると、床から這い出てなるべく音が出ないようにして台所に立つと髪を結んで、山姫が浸けた大根の漬物を壺から取り出して無心に切りだした。
…まだ早朝だ。
でも主さまが隣の部屋で寝ていて、息遣いも聴こえてくる気がして、そこには居られなかった。
「お、息吹?早いな」
「あ、雪ちゃん…おはよ。寝なかったの?朝ごはん食べてから寝る?」
「朝ごはん!?お、お、おう、食う。食ってから寝る!」
「じゃあ…あの…主さまの分も作っておくから食べてもらってね?」
雪男が髪を結んで露わになった息吹の白いうなじを見つめながら漬物をつまみ食いして、縁側の方を指した。
「主さまならもう起きてるぜ」
「え…」
…主さまは、自分が起きていたことには気が付いていないはず。
だから大丈夫。きっと…
主さまは壮絶ともいえる色気を発しながら息吹を見下ろした。
――息吹は、ただ動揺していた。
はじめての唇の感触…
しかも唇を奪ったのは、自分のことを嫌っていると思っていた主さまで、
今もただ見つめられている気配がして、瞼が動きそうになるのを必死で耐えた。
そして…帯に手がかかった。
悲鳴を上げてしまえばもう2度と主さまは話しかけてくれないし、自分のことを見てくれないかもしれない。
だが、“食いたい”と言われて喜んだのも事実。
もう駄目だと思った時――
帯から手が離れていき、主さまが左腕に触れて来て、持ち上げられた。
前日、主さまに強く掴まれて痣になった部分で、そこにも唇を押し付けられて、本当に声を上げそうになると、腰を上げてそっと離れていき、隣の部屋へと消えて行った。
「…………主、さま…」
今も唇には感触が残っていて、呼吸を忘れていた息吹は顔に抱き枕を押し付けながら先程の出来事が一体何だったのかを振り返ったが…
とても激しかった口づけ…
あんな風に誰かに求められたのははじめてで、それが主さまであることを喜んだ。
どうして喜んだのかもわからなくて、しばらくの間床の中でじっとして主さまが寝静まったのを確認すると、床から這い出てなるべく音が出ないようにして台所に立つと髪を結んで、山姫が浸けた大根の漬物を壺から取り出して無心に切りだした。
…まだ早朝だ。
でも主さまが隣の部屋で寝ていて、息遣いも聴こえてくる気がして、そこには居られなかった。
「お、息吹?早いな」
「あ、雪ちゃん…おはよ。寝なかったの?朝ごはん食べてから寝る?」
「朝ごはん!?お、お、おう、食う。食ってから寝る!」
「じゃあ…あの…主さまの分も作っておくから食べてもらってね?」
雪男が髪を結んで露わになった息吹の白いうなじを見つめながら漬物をつまみ食いして、縁側の方を指した。
「主さまならもう起きてるぜ」
「え…」
…主さまは、自分が起きていたことには気が付いていないはず。
だから大丈夫。きっと…

