息吹は人間――手を出してどうなる?
また逃げられて…またせつなく苦しい思いをずっとずっと抱えて過ごさなければならなくなるぞ。
――主さまは自分自身にそう諭しながらも…息吹の白く滑らかな頬に触れてしまった。
さらさらの艶やかな黒い髪を耳にかけて顔が見えるようにすると、気配に気づいたのかこちらに寝返りを打って、半開きの唇に釘づけになった。
…以前もこうして寝込みの息吹を襲いそうになったことがある。
息吹だけは駄目だ。
他の女で誤魔化せばいいだろう?
またそう問うたが、自分自身の答えは『否』だった。
「息吹…」
晴明は言った。“1度寝たら朝まで起きない”と。
だから束の間、夢だと思って受け入れてもらいたい。
人と妖――交わってはならない禁断の想いを遂げるわけにはいかない。
だから今だけ…
――主さまはゆっくりと顔を近付けて、息吹の頬に口づけを落とした。
…起きる気配はない。
頬に触れた唇が熱くなって、あと数年もすれば今以上に誰もが振り返る美女になるであろう息吹が誰かのものになることが想像できず、突然激情が襲ってきて、もう想いを抑えつけられなくなった主さまは、息吹の唇を奪った。
すると息吹の表情が少し変わった。
…女だ。
頬は上気し、起きても構わない、という激しさで息吹を欲する主さまの口づけに、夢の中ながらも身体が反応した。
顔の横で両手を封じて指を絡めると、半ば覆い被さる形になった主さまはこの時もう止める術を持たず、ただ息吹の唇を求めた。
こんな想いになるのははじめてで、明け方の薄暗い部屋で、禁断の扉を開こうとしていた。
「…お前を…食いたい」
押し殺した声で耳元で囁いて、びくりと身体が震えた息吹を強く抱きしめて、また唇を重ねる。
食いたい。
そうだ、食ってしまえばひとつになれる。
だけどもう、こんな風に一生息吹に触れることはできなくなる。
それは、いやだ。
「息吹…」
何度も名を呼ぶ。
――主さまの下の息吹は…眠っていなかった。
主さまは、まだ気付いていない。
また逃げられて…またせつなく苦しい思いをずっとずっと抱えて過ごさなければならなくなるぞ。
――主さまは自分自身にそう諭しながらも…息吹の白く滑らかな頬に触れてしまった。
さらさらの艶やかな黒い髪を耳にかけて顔が見えるようにすると、気配に気づいたのかこちらに寝返りを打って、半開きの唇に釘づけになった。
…以前もこうして寝込みの息吹を襲いそうになったことがある。
息吹だけは駄目だ。
他の女で誤魔化せばいいだろう?
またそう問うたが、自分自身の答えは『否』だった。
「息吹…」
晴明は言った。“1度寝たら朝まで起きない”と。
だから束の間、夢だと思って受け入れてもらいたい。
人と妖――交わってはならない禁断の想いを遂げるわけにはいかない。
だから今だけ…
――主さまはゆっくりと顔を近付けて、息吹の頬に口づけを落とした。
…起きる気配はない。
頬に触れた唇が熱くなって、あと数年もすれば今以上に誰もが振り返る美女になるであろう息吹が誰かのものになることが想像できず、突然激情が襲ってきて、もう想いを抑えつけられなくなった主さまは、息吹の唇を奪った。
すると息吹の表情が少し変わった。
…女だ。
頬は上気し、起きても構わない、という激しさで息吹を欲する主さまの口づけに、夢の中ながらも身体が反応した。
顔の横で両手を封じて指を絡めると、半ば覆い被さる形になった主さまはこの時もう止める術を持たず、ただ息吹の唇を求めた。
こんな想いになるのははじめてで、明け方の薄暗い部屋で、禁断の扉を開こうとしていた。
「…お前を…食いたい」
押し殺した声で耳元で囁いて、びくりと身体が震えた息吹を強く抱きしめて、また唇を重ねる。
食いたい。
そうだ、食ってしまえばひとつになれる。
だけどもう、こんな風に一生息吹に触れることはできなくなる。
それは、いやだ。
「息吹…」
何度も名を呼ぶ。
――主さまの下の息吹は…眠っていなかった。
主さまは、まだ気付いていない。

