主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-【完】

「息吹を預かってもらいたい」


藪から棒に晴明が口にした頼みに、主さまは思わず目を丸くして起き上がった。


「なに?今なんと…」


「聴こえていたのだろう?2度は言わぬ」


「息吹を…預ける?どこに?…俺にか!?」


晴明は主さまの懐から煙管を抜き取り、口に咥えると脚を投げ出しながら縁側に座った。


「少々ややこしく難しい術を使う故、息吹が居ない方が集中できる」


――息吹を預かるとはつまり…

ひとつ屋根の下…使う風呂も一緒…

ずっと…一緒?


「む、無理だ。預かれない。連れて帰れ!」


「会いたくなければ夜まで部屋に籠もっていればよかろう。さあ、持っておいで」


ぱんと手を叩くと、屋敷の前に止まっていた牛車から式神の童女と童子が出てきて、その手には大きな風呂敷を持ち、次々と部屋へと運び込んでいく。


その部屋とは…


「おい、そこは俺の部屋…」


「息吹と一緒では不満か?あの子は寂しがり屋故、なかなか独りでは寝付けぬ」


「息吹と…同室だと!?やめろ!」


「だから駄目だと言っている。では隣室で手を打ってやろう。襖ひとつ隔てた隣の部屋は息吹に。異存あるまい」


涼やかな顔をして優雅に扇子を振り、主さまが激怒寸前でも全く怯えも悪びれもせず、だが真面目な顔で言った。


「私に協力してくれるのか?」


「…ああ、仕方ない。お前の母が一条朝に捕えられた時、俺は今一歩の所で助けてやれなかった。これは罪滅ぼしだ。礼は要らんぞ」


似た者同士が笑みを交わし、だが主さまは苦悩。


「…あれに手を出されても良いのか?」


「あれとは息吹のことか?手を出すつもりならばけじめはつけてもらうぞ」


「けじめ?」


「嫁取りに決まっているだろうが。私は手放したくないのだが…十六夜よ、ぎりぎりまで耐えるのだぞ。あの子を泣かせると私が地の果てまで追ってやるからな」


…あながち冗談とも言えず、主さまはがりがりと髪をかきむしるとまた盛大なため息をついた。


「…自信がない」


「知っている。だから耐えろと言っているのだ」


――主さまいじめは続いていた。