主さまに抱き着いているとなんだか急に恥ずかしくなった。
だけど主さまの腕の中からは離れがたく…息吹はそっと顔を上げて見つめてしまった。
――6年ぶりの主さま。
6年前は、主さまがこんなにも綺麗な男だということには気が付かず、腕も固く細く、じっと見つめられていて、ぎくしゃくと俯いた。
「子供みたいに泣いちゃってごめんなさい…」
「…お前はまだまだ餓鬼だ。小娘だ」
「ひどいっ、私だって6年前に比べたら少しは大人っぽくなったでしょ?」
詰ると、ふっと笑う気配がした。
「主さま…これからは昔みたいに私が髪を梳かしてもいい?」
「…好きにしろ」
胸に置いた掌から、どくどくと激しい鼓動が聴こえて、主さまも緊張しているのだとわかって息吹が身体を起こすと、主さまは…苦しそうに眉根を絞って顔を背けた。
「主さま?」
「…今日はもう帰れ。考え事をしたい」
「はい。主さま、ありがとう。あの…私がこんなお願いをしたこと、父様には言わないでね?」
「…わかった」
相変らず素っ気ない。
だがちゃんと言葉を交わしてくれたし、視線も交わしてくれた。
…抱きしめてくれた。
それが1番嬉しくて、最後に主さまの手をぎゅっと握ると、額と額をこつんと軽く合わせて、目を閉じた。
「また主さまと一緒に居られて嬉しい。今でも私のこと…食べたいと思ってる?」
「…当然だ。お前は俺の食い物に過ぎない。…早く行け」
「それでもいいの。私…前みたいに主さまの傍に居たいの」
“食べ物だ”と言われても、主さまがとても優しい妖だということを知っている。
“十六夜”として傍に居てくれて、悪い妖からも守ってくれて…抱きしめてもくれた。
だから、いつか食われても構わない。
「主さま、見て」
「?」
――息吹は人差し指を歯で軽く噛み切った。
ぼたぼたと血が滴り、呆然とする主さまの唇にその血を塗り付けて、笑った。
「まだ私はあげられないけど、血ならいいよ。足りなくなったら言ってね」
…甘い。
ほのかに香って、主さまをくらりとさせた。
だけど主さまの腕の中からは離れがたく…息吹はそっと顔を上げて見つめてしまった。
――6年ぶりの主さま。
6年前は、主さまがこんなにも綺麗な男だということには気が付かず、腕も固く細く、じっと見つめられていて、ぎくしゃくと俯いた。
「子供みたいに泣いちゃってごめんなさい…」
「…お前はまだまだ餓鬼だ。小娘だ」
「ひどいっ、私だって6年前に比べたら少しは大人っぽくなったでしょ?」
詰ると、ふっと笑う気配がした。
「主さま…これからは昔みたいに私が髪を梳かしてもいい?」
「…好きにしろ」
胸に置いた掌から、どくどくと激しい鼓動が聴こえて、主さまも緊張しているのだとわかって息吹が身体を起こすと、主さまは…苦しそうに眉根を絞って顔を背けた。
「主さま?」
「…今日はもう帰れ。考え事をしたい」
「はい。主さま、ありがとう。あの…私がこんなお願いをしたこと、父様には言わないでね?」
「…わかった」
相変らず素っ気ない。
だがちゃんと言葉を交わしてくれたし、視線も交わしてくれた。
…抱きしめてくれた。
それが1番嬉しくて、最後に主さまの手をぎゅっと握ると、額と額をこつんと軽く合わせて、目を閉じた。
「また主さまと一緒に居られて嬉しい。今でも私のこと…食べたいと思ってる?」
「…当然だ。お前は俺の食い物に過ぎない。…早く行け」
「それでもいいの。私…前みたいに主さまの傍に居たいの」
“食べ物だ”と言われても、主さまがとても優しい妖だということを知っている。
“十六夜”として傍に居てくれて、悪い妖からも守ってくれて…抱きしめてもくれた。
だから、いつか食われても構わない。
「主さま、見て」
「?」
――息吹は人差し指を歯で軽く噛み切った。
ぼたぼたと血が滴り、呆然とする主さまの唇にその血を塗り付けて、笑った。
「まだ私はあげられないけど、血ならいいよ。足りなくなったら言ってね」
…甘い。
ほのかに香って、主さまをくらりとさせた。

