主さまが起きるまで山姫と掃除をしていようと思い立ち、たすき掛けをすると雑巾で縁側を拭きはじめた。
――主さまは、息吹が何を話そうとしているのかを寝室で寝転びながら考えていたが…何も思いつかない。
…ましてや息吹と相対する心の準備が出来ていない。
息吹は、綺麗になりすぎた。
夢の中に2度出てきた息吹よりももっともっと美しく可憐で、今でも唇の感触が…忘れられない。
「ねえ母様、主さまはまだ起きないのかな。お昼食べると思う?私が準備してもいい?」
「そりゃ主さまも喜ぶよ」
「じゃあお台所の食材使わせてもらうね」
息吹が自分のために昼餉を作ってくれると聞いて居ても立っても居られなくなった主さまは起き上がるとそわそわし始めて、そっと襖を開けて山姫を呼び寄せた。
「主さま、顔がにやけてますよ」
「…昼餉を作っているのか?俺のを?」
「聞いてたんじゃないんですか?駄々をこねずにちゃんと食べてやってくださいよ」
「…できたら呼べ」
にやける口元を隠しながら襖を閉め、それでも落ち着かずに本を読んだり閉じたり寝転がったり悶えたりしていると…
「主さま、ご飯を作ったの。一緒に食べようよ」
「……眠い」
「魚の干物を焼いたの。今ならまだあったかいから」
「……わかった」
眠そうに欠伸をしながら寝室を出ると、息吹が満面の笑顔で待ち受けていた。
膳に用意された吸い物と干物、おこわと漬物に、まるで息吹と夫婦になったような気分になって、難しい顔を作るのに必死になっていた。
「食べて食べて。父様からよく“美味しい”って誉められるの」
「……まあまあだな」
…吸い物を最後まで飲み干して言う台詞でもなかったが、息吹が嬉しそうに笑ったので無言のままおこわを口にしていると、正面に座り、箸を置いた息吹が…膳を横にずらすと、主さまに向かって深々と頭を下げた。
「息吹!?何してるんだい!?」
「主さま…助けて下さい」
「…話が読めない。何をだ」
「お願いします…。父様を助けて下さい」
涙声。
ぽたぽたと畳に涙が零れた。
――主さまは、息吹が何を話そうとしているのかを寝室で寝転びながら考えていたが…何も思いつかない。
…ましてや息吹と相対する心の準備が出来ていない。
息吹は、綺麗になりすぎた。
夢の中に2度出てきた息吹よりももっともっと美しく可憐で、今でも唇の感触が…忘れられない。
「ねえ母様、主さまはまだ起きないのかな。お昼食べると思う?私が準備してもいい?」
「そりゃ主さまも喜ぶよ」
「じゃあお台所の食材使わせてもらうね」
息吹が自分のために昼餉を作ってくれると聞いて居ても立っても居られなくなった主さまは起き上がるとそわそわし始めて、そっと襖を開けて山姫を呼び寄せた。
「主さま、顔がにやけてますよ」
「…昼餉を作っているのか?俺のを?」
「聞いてたんじゃないんですか?駄々をこねずにちゃんと食べてやってくださいよ」
「…できたら呼べ」
にやける口元を隠しながら襖を閉め、それでも落ち着かずに本を読んだり閉じたり寝転がったり悶えたりしていると…
「主さま、ご飯を作ったの。一緒に食べようよ」
「……眠い」
「魚の干物を焼いたの。今ならまだあったかいから」
「……わかった」
眠そうに欠伸をしながら寝室を出ると、息吹が満面の笑顔で待ち受けていた。
膳に用意された吸い物と干物、おこわと漬物に、まるで息吹と夫婦になったような気分になって、難しい顔を作るのに必死になっていた。
「食べて食べて。父様からよく“美味しい”って誉められるの」
「……まあまあだな」
…吸い物を最後まで飲み干して言う台詞でもなかったが、息吹が嬉しそうに笑ったので無言のままおこわを口にしていると、正面に座り、箸を置いた息吹が…膳を横にずらすと、主さまに向かって深々と頭を下げた。
「息吹!?何してるんだい!?」
「主さま…助けて下さい」
「…話が読めない。何をだ」
「お願いします…。父様を助けて下さい」
涙声。
ぽたぽたと畳に涙が零れた。

