主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-【完】

“安部晴明の養女が帝の求愛を断ったらしい”


よもや平安町にその噂が広まっていたことを全く知らない息吹は、汗を流すために山姫と風呂に入っていた。


「あちこち成長したねえ。主さまも喜ぶよ」


「え?どうして主さまが喜ぶの?」


息吹の背中を擦ってやりながら山姫が感慨深くため息をつき、大人の女性の身体つきになりつつある白い絹のような肌に思いを巡らせた。


「息吹は好きな男は居ないのかい?」


「居るよ?」


「え!?す、好き合っているのかい?!」


「父様。あと道長様も好き。雪ちゃんも好きだし主さまも好き」


――焦がれるような想いをまだ抱いたことがないらしく、山姫は明らかにほっとしながら息吹の身体を流してやり、桧の浴槽に入りながら身体をくすぐった。


「きゃっ、母様、やめて、くすぐったい!」


「ひやっとさせるんじゃないよ!好きな男ができたら母様にすぐ言うんだよ、わかったね?」


「だから父様とか道長様とか…きゃーっ!」


――風呂場で山姫と息吹が楽しそうな声を上げている声は…主さまの居る自室にも聴こえていた。


「あ、あいつら…何を…」


山姫と息吹が風呂に…

息吹が風呂に…

…裸?


「……やめろ!想像するな!」


髪をかき上げて妄想しそうになる頭を強めに殴り、顔でも洗おうと思って寝室から出ると…


雪男が顔を真っ赤にしながら膝を抱えて縁側に座っていた。


「…何をしている」


「え!?い、いや、何も…。あの…山姫と…その…息吹が…その…」


半妖とは双方の親の良い部分だけを受け継ぐ性質があり、母の雪女は絶世の美女で、父の人間は優しげで物静かな男だったらしい。

雪男はそんな親の良いとこ取りの美貌の持ち主で、やや目元はきつかったが、耳を塞ぎたくても塞げない状況に懊悩していた。


「…変な想像をしていたな?」


「!!ぬ、主さまこそ!」


にらみ合っていると…


「母様の胸っておっきいね。私ももっと大きくなれるかなあ」


「なるさ。好きな男に触ってもらえばすぐに大きくなるよ」


…風呂から上がってきた2人の会話に、赤面。