日中、息吹が再び主さまの屋敷を訪れるまで…
主さまは一睡もせず、庭を行ったり来たりしていた。
「…本当に不器用だねえ」
聞こえないように山姫が呟く。
また雪男も同じで、普段絶対掃除などしない男なのにはたきを手に部屋をうろうろして鬱陶しいことこの上なかった。
――だが嬉しいのは山姫も同じ。
娘が帰って来たのだから。
「主さまと夫婦になってくれるのが1番いいんだけどねえ…」
「…その話はやめろと言っている」
…そういうところだけは地獄耳の働く主さまからきっと睨まれて首を竦めていると…
門の前で牛車が止まり、主さまが脱兎の如く縁側を跨いで寝室に駆け込んだ。
「全く…素直じゃないねえ」
引きこもった主さまとは逆に、雪男ははたきを放ると門まで息吹を迎えに行き、息吹が姿を現わすと、どもりながら手を差し伸べた。
「あ、危ないから俺の手を貸してやる」
「ありがとう雪ちゃん。今日はお土産を持ってきたの」
昔のように息吹と手を握り、山姫が口元を手で隠しながら笑っている姿が癪だったが、縁側に座ると手にしていた巾着を開いて雪男と山姫に見せた。
「綺麗だねえ、これは何だい?」
「金平糖って言うの。甘くておいしいお菓子なの。主さまにも食べてもらいたいんだけど…」
じっと寝室を見つめていると咳ばらいがして、中に居ることがわかると息吹は颯爽と立ち上がり、部屋のの襖に手をかけた。
「ちょ、ちょっと息吹!そこは主さまの許しなく入っちゃいけないんだよ?!」
「?どうして?私、いつもここで寝てたんだよ?」
「それは6年前までの話であって…」
――怒られることなど毛頭考えていない息吹が襖を開けると、薄暗い部屋の中で主さまが難しそうな顔をして本を読んでいた。
「…勝手に入るな」
「これ、お土産なの。一緒に食べようよ」
「……」
「主しゃまー、遊んで!」
幼い頃毎日のように“主しゃまー、遊んで”と言っていた口癖が息吹の口から飛び出て、主さまがついふっと口元を緩めると金色の金平糖をひとつ手に押し付けてきて、美味しそうに隣で食べ始めた。
主さまは一睡もせず、庭を行ったり来たりしていた。
「…本当に不器用だねえ」
聞こえないように山姫が呟く。
また雪男も同じで、普段絶対掃除などしない男なのにはたきを手に部屋をうろうろして鬱陶しいことこの上なかった。
――だが嬉しいのは山姫も同じ。
娘が帰って来たのだから。
「主さまと夫婦になってくれるのが1番いいんだけどねえ…」
「…その話はやめろと言っている」
…そういうところだけは地獄耳の働く主さまからきっと睨まれて首を竦めていると…
門の前で牛車が止まり、主さまが脱兎の如く縁側を跨いで寝室に駆け込んだ。
「全く…素直じゃないねえ」
引きこもった主さまとは逆に、雪男ははたきを放ると門まで息吹を迎えに行き、息吹が姿を現わすと、どもりながら手を差し伸べた。
「あ、危ないから俺の手を貸してやる」
「ありがとう雪ちゃん。今日はお土産を持ってきたの」
昔のように息吹と手を握り、山姫が口元を手で隠しながら笑っている姿が癪だったが、縁側に座ると手にしていた巾着を開いて雪男と山姫に見せた。
「綺麗だねえ、これは何だい?」
「金平糖って言うの。甘くておいしいお菓子なの。主さまにも食べてもらいたいんだけど…」
じっと寝室を見つめていると咳ばらいがして、中に居ることがわかると息吹は颯爽と立ち上がり、部屋のの襖に手をかけた。
「ちょ、ちょっと息吹!そこは主さまの許しなく入っちゃいけないんだよ?!」
「?どうして?私、いつもここで寝てたんだよ?」
「それは6年前までの話であって…」
――怒られることなど毛頭考えていない息吹が襖を開けると、薄暗い部屋の中で主さまが難しそうな顔をして本を読んでいた。
「…勝手に入るな」
「これ、お土産なの。一緒に食べようよ」
「……」
「主しゃまー、遊んで!」
幼い頃毎日のように“主しゃまー、遊んで”と言っていた口癖が息吹の口から飛び出て、主さまがついふっと口元を緩めると金色の金平糖をひとつ手に押し付けてきて、美味しそうに隣で食べ始めた。

