主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-【完】

足の裏が痛くてひょこひょこと歩いていると、腕を支えてくれるひんやりとした冷たさにそれが誰だかすぐにわかって振り向きざま抱き着いた。


「わっ!?お、おい、息吹!」


「雪ちゃん雪ちゃん雪ちゃん!会いたかった!元気にしてたっ?」


息吹の教育係だった雪男の真っ白な肌が瞬時に真っ赤になり、成長した息吹に『ホの字』なのは皆も知っていることで、嬉しそうに見上げて来る息吹の顔を間近に見てしまい、腕を振り払った。


「もう帰るんだろ?気を付けて帰れよ」


「雪ちゃん、私、ここに通うつもりだからまた前みたいに仲良くしてね?」


「あ、ああ」


今度は山姫の腕を借りて庭を降り、まるで百鬼夜行のように百鬼たちがぞろぞろと後を追う。


1人になった晴明は、主さまの許しなく部屋のの襖を開けた。


「!?晴明?」


「何故膨れっ面なのだ?十六夜と主さまが繋がったのだぞ。喜ばぬのか?」


「…もう俺たちとは関わらない方がいい。人の世界で、人と夫婦になって…」


「ほう、相手が帝でも良いわけだな?」


「あの男だけは駄目だ!………あと、道長も駄目だ」


――結局はどの男でも駄目なわけで、激しい独占欲を見せる主さまの傍らに座ると指で肩を突いた。


「そなたの許しが出るまでここへ日参すると言っていたな。鬱陶しいならば私から息吹に諭すが?」


主さまは、晴明にだけは本音を見せる。

また、晴明も主さまだけには本音を見せる。


だから、この時主さまは本心を晴明に語った。


「…俺が息吹を許さなければ、息吹はここに通い続けるんだな?……だったら一生許さない」


「それは矛盾してはいまいか?人の世界で人と夫婦になることを望むならば、もうこの町には入らせぬが良い。それか、そなたが息吹を娶るか?」


主さまが目を見張った。

この前も山姫にそう提案されたばかりで、赤くなる顔を袖で隠しながら背を向けた。


「息吹は人だ!馬鹿なことを言うな!」


「そういえば先ほどは雪男とも良い雰囲気だったが。あれがああなってこうなると…ふむふむ」


「何の算段をしている!」


主さまを苛めるのは、最高に楽しかった。