墜ちた羽根

聞けば同じ事を聞き返されてしまった。それもそうだ。
見ず知らずの人間がここまで自分に付き添っているのだから。
聞き返されるのは当然だと思う。
だから此処は私から名乗るのが礼儀だと思い、先に名乗ることにした。

「私は唐戸（からと）涼那。涼那で良いよ」

彼は何故か驚いたかと思えば、少し黙ってしまった。
まさか記憶喪失って事じゃないよね…？
すぐに答えられない理由なんてそれ以外に考えられない。
お願いだから答えて。そう思った。
どれくらいの沈黙が続いたのだろうか。漸く彼は名前を言った。

「…オウヤ」

そう一言だけ言った。
苗字なのか名前なのかは分からなかったけれど、
とりあえず名前が“オウヤ”と言う事が分かって、
漸く私は彼を名前で呼ぶ事が出来るようになった。

「で、オウヤ君。家族の人が心配するでしょ？」
「んなのは…いない」