手が切られてからはスローモーションだった。
驚くアイツの顔がよく見えて、その間に私よりも高い背が壁のように立ちはだかる。
ああ、彼だ。何度も私を助けてくれた彼だ。
そう気付くとカクリと足の力が抜けて地に座り込んだ。
「何?誰?」
アイツは彼に問いかける。けれど、彼は答えない。どんな表情なのか私には分からない。見えるのは地面のみ。パタパタと地面に黒い染み。
「ねぇ未来。誰?」
今度は私に問いかけてくるも、私だって答えない。答えられない。首を横に振った。
「よく分からないけど、関係ないならどいてくれないかな?こっちは未来に用事があって来たんだけど」
温厚そうな声色。奴お得意の作り笑いを浮かべているのだろう。その情景が今見てるように浮かぶ。
彼も騙されるのだろうか。その笑みに。私から一つ、嗚咽が漏れた。



