箱庭ラビリンス



母の声が聞こえようとも私は返事はしない。顔が見えない分、感情の制御がまだ効いた。その時までは。


『菜穂ちゃんに聞いたわ。智也(ともや)くんに会ったって……』


「っ」


智也。その名前を聞いただけで私の軸がブレて目眩を起こす。アイツはそんな名前で、母さんはそんな風に呼んで。


アイツはいつもそれに対して人当たりがよさそうに笑っていた。私にも笑ってくれていた筈だった。


気持ちが悪い。


『未来、大丈夫だった?何かあったらって思って……』


落ち着け。今何も思い出すな。


『未来は知らないだろうけど約束したの。未来には近づかないでって……。もしも、智也くんと何かあったら……』


瞬間的に映るのは耳を塞いだ小さな子供だった。


子供は私の耳も遮断してきた。