箱庭ラビリンス



――


聴こえる。あの日とは違うように聴こえるけれど、同じ曲。頭の中で流れるその曲。


聴かせてくれたのは……


「――……ナナギくん」


今一度あの子の名を音に紛らせて呟いた。


『未来ちゃん』


記憶の中のあの子が応えるかのように笑った。……気がした。そんなわけないのに。


私は大きく深呼吸をし、扉に手を掛けた。キィ。と軋んだ音が混ざった。


映る光景は夕暮れに染まる音楽室に、オレンジの中でも映える黒いピアノ、そして……


「――……もう、来てくれないかと思ってた」


悲し気に笑う彼。


来るよ。遠回りしても此処に。君の側に。