箱庭ラビリンス



菜穂姉は、私に笑いかけると奴に向き直る。


大きなため息を吐き、幾分か高い相手に詰め寄った。


「さて……智也くん。気は済んだかしら?済んでいないならそれ相応の事、させてもらうけど」


威圧的な物言いに相手はおろか私まで物怖じしてしまう。でも、どうしてだか内には悪い感情が込められていない気がした。


今度は相手がゆっくりと息を吐く。俯きながら、呟く。


「――……もう関わらない。もう分かった。未来にはいつも誰かがいて……やっぱり嫌いだ」


また息を吐くも、それ以上は語らずズルズルと扉を背に座り込んだ。


「……」


それを見て、私も一歩踏み出す。まだ足は震えて収まりそうにないけれど、また一歩。


奴の前に立とうとすれば、菜穂姉に軽く肩を捕まれたが、私はそれを振りほどき目の前に立ちはだかった。