「愛してる」、その続きを君に



その日の午後から、信太郎は綾乃と煌々と光る大きなスクリーンの前にいた。


目は確かにそのスクリーンに映し出される映像を見て、字幕を追っているのに、ストーリーは全く頭に入ってこない。


せっかく映画館まで出向いたのに、彼の目に浮かぶのは先ほどの夏海の顔だった。


そのかすかに濡れた彼女の目元が、直前まで泣いていたのだと教えてくれていた。



「天宮くん」


名を呼ばれた方を見ると、綾乃はバッグを手に立ち上がり信太郎を見下ろしていた。


いつのまにか明るくなった館内は出口に向かう観客で騒然としている。


「あ…おっと。あんまりにも感動しちゃったから次の上映も見ちゃうとこだったよ」


苦し紛れにそう言って、彼が慌てて立ち上がると、座席が勢いよく跳ね上がった。


綾乃の不安げな顔に気付きつつも、「行こう」と信太郎は出口に向かった。


映画館を出た二人は人でごったがえす通りに出た。


「ねぇ」と、綾乃が背後から追ってくる。


息を切らした彼女に、信太郎は頭をかいた。


「ごめん。歩くの早すぎた。ほら、俺って足が長いだろ?」


そんな彼に綾乃はおかしそうに笑う。


さきほどの不安げな顔はもうない。


「私チビだから天宮くんとの歩幅に差がありすぎるのよね。天宮くんの1歩が私の3歩ぐらいじゃないかしら」


「そんなに?じゃあしっかり牛乳飲んで、おっきくなれよ」


「もう、それは小さい子に言う台詞でしょ」


「小さいじゃん」


「イジワル」