かなりの時間、夏海はそうやっていたのだろう。
武子の部屋に差し込んでいた太陽の光がいつのまにか見あたらなくなっていた。
ふいに玄関のチャイムが鳴る。
面倒だな、そう思ったが何度も鳴らされるチャイムに、とうとう夏海は重い腰を上げた。
玄関戸のすりガラスには、黒い影がふたつ。
一つは背の高いものと、もう一つは柔らかな線で細い。
それらから大体誰であるかは想像できた。
サンダルをひっかけると、夏海はそろそろと戸を開けた。
「なっちゃん?」
信太郎と、その姉の恵麻(えま)だった。
「急に来てごめんね。携帯にも家にも電話してみたんだけど…」
気まずそうに言う恵麻の横で、信太郎は夏海の顔を食い入るように見てきた。
「ひとり?おじさんは?」
「今日は早番で朝早くに出ていって…。あ、入って入って」
彼女はできるだけ明るくそう言って、大きく戸を開けた。
「ごめんねー気の利いたものがなくって」と夏海は明るく笑って麦茶をグラスに注ぐと、彼らの前に差し出した。
いいの、いいのと恵麻は小さく手を振り、夏海が腰を下ろしたのを見計らって「武ばぁの具合は?」と遠慮がちに訊ねた。
「今は血圧を下げる薬と脳の腫れを抑える薬を投与されてて、意識はまだ…」
信太郎がグラスに手を伸ばすと、大きめの氷が音を立てる。
「恵麻おねえちゃんは?今日は仕事お休み?」
「うん。日曜日だから戻ってきたの」
ああ、そうか、今日は日曜日なんだっけ、と夏海は久々に曜日というものを意識する。
「だから信ちゃんもいるんだ」
「おいおい、なんだその言い方は」
そんな信太郎に彼女はふふっと頬を緩めた。


