夏海が風呂からあがると、武子がこたつに入るように手招きした。
「あったかいミルクでも飲むかい?」
「ううん、今日はやめとく。まだ予習が残ってるんだ。本当は欲しいんだけど、あれを飲むと眠くなっちゃうから。ありがとね、おばあちゃん」
夏海はこたつに足を突っ込むと、テーブルに置かれてあった新聞を広げた。
武子がホットミルクの代わりに、あたたかいお茶を入れて出すと、彼女は「ありがとう」と両手で湯呑みを包み込むようにして、熱い一口を飲む。
「あーおいしー。やっぱ日本人はお茶よ」
「ねぇ、なっちゃん?」
「んー?」
夏海はまたお茶をすする。
「お父さんの気持ちわかったげてね」
「…うん、言われなくてもわかってるよ」
「お父さんね、ずっとなっちゃんが心配だったんだよ。そばに置いてずっと見守っていたかったんだよ。お母さんがあんなことになって、もしなっちゃんに何かあったら…ってちょっと神経質になりすぎてたのかもね。だから大学行かずにここにいろって…」
「……」
「でも、わかったみたいだよ。もうなっちゃんはしっかりしてて、お父さんやばあちゃんがいなくても自分で前へ進める力を持ってるって。だから、あんたがやりたいように、生きたいようにしたらいいから」
「でも、本当に大学に興味ないんだもん」
「それならそれでもいいんだよ。でも先のことはわからないだろ?気持ちだって変わる。その時は遠慮せずに言うんだよ。ばあちゃんたちのことは気にしなくていいから」
「…わかってるよ」
「じゃあ、ばあちゃんは風呂に入ってくるから。早く髪の毛乾かしおいで。風邪ひいちゃうよ」
「…うん」
湯呑みを包んだ手のひらが、厚さでジンジンすることに夏海はようやく気が付いた。


