「愛してる」、その続きを君に



夏海のそんな様子にたじろいだ山下は、ギィと錆びた音を立てて椅子に背を預けるとこう言った。

「…なんで?」


ああ、このごま塩め、夏海の苛立ちは頂点に達する直前だった。


年老いた祖母の近くにいたい、今まで母親代わりとして育ててくれた分、今度は自分が祖母を守りたい…こんなことを目の前のごま塩に言っても、果たして理解してくれるのだろうか。


それが進学よりも夏海にとっては大切なものなのだと、わかってくれるのだろうか。


「とにかく、進学は考えていません。電車の時間がありますので、もういいですか?なんせ田舎なんで、1本電車を逃すと、次は1時間半後なんです」


「いや、ちょっと…」


「失礼します」


夏海は席を立つと、山下の呼び止める声に振り向きもせず、職員室を出て行った。


ああ、イライラする…


廊下を渡る彼女の足音が、いつになく大きく早かった。


教室に戻ると、とっくに帰ったとばかり思っていた雅樹が、夏海の席で読書をしていた。


返ってきた彼女を見ると、ぱたんと本を閉じる。


「あれ?マーくん」


「意外と早かったんだね」


「うん、早く終わらせたのよ」と彼女は舌を出した。


立ち上がった彼は、夏海の鞄を手に取ると、「急げば40分の電車に間に合うけど、どうする?かなりギリギリだけど?」と言いながら差し出した。


「もちろん、乗ります」


彼女は笑顔でそれ受け取ると、雅樹とふたり、教室を駆け出した。