祖母の武子が洗った皿を受け取ると、夏海は手際よく付近で水気を取り食器棚へ戻していく。
「おばあちゃん、今日の煮付け、すっごくおいしかった。あれ今日市場で買ってきたんでしょ?」
「そうよー、買う時にはまだピチピチはねてたくらいだからね」
「どおりで。身がしまってたもん」
「そうそう、その魚市場で今日信ちゃんのお母さんにバッタリ会ってね」
「あ…!」
夏海の手からつるりと茶碗が滑り落ち、ゴンッと鈍い音をたててそれは台所のマットの上を転がった。
「あれまぁ!」
「ごめん!」
慌てて拾い上げ、割れていないかチェックする。
「セーフ!マットの上でよかったぁ」
言葉通り胸を撫で下ろすと、夏海は平静を装って祖母に話の続きを促した。
「信ちゃんのお母さんが、最近なっちゃんが来てくれないから寂しいって。ほら、お姉ちゃんの恵麻(えま)ちゃん、就職して家を出てるでしょ?寂しいから、いつでも遊びに来てねって」
夏海は台本をそのまま読むように、あはは、と笑った。
「無理無理。だって信ちゃんカノジョいるもん。もしそんなとこをカノジョに見られたら誤解されちゃうじゃん」
「え?」
今度は武子が手を止めて、驚いた顔で夏海を見る。
そんな反応に内心うろたえながら
「おばあちゃん、水だしっぱなし」と顎をしゃくって蛇口に目を向けた。
「ああ…ほんと。もったいない、もったいない」
武子も再び手を動かしだす。
気まずい沈黙が流れる中、夏海は上唇を舐めるとわざと明るく言った。
「信ちゃんのカノジョ、すんごいカワイイんだよ。顔がちっちゃくて、目もクリクリしててね。髪なんてサラッサラ!フランス人形みたいなんだから」
「そうかい」


