子どもたちのはしゃぎ声が遠くに感じられる。
信太郎はゆっくりと時間をかけてスープを飲んだ。
「おいしかった。あったまったよ、ありがとう」
空になった紙コップを手に立ち上がった彼を追うように、綾乃は顔を上げる。
「途中で悪いんだけど、終電の時間が近いから俺はこれで失礼するよ」
「え…」
お父さんが豊浜まで車で送っていくって言ってたのに…
口をついて出できそうな言葉を、綾乃は飲み込んだ。
今夜はこのまま別れたほうがいいのかもしれない、そう思ったからだ。
「あのさ…」
何も言わない彼女に信太郎が続ける。
「もし今夜の俺のことを許してもいいって思ったら、また連絡くれないかな」
「……」
「待ってるから」
「……」
一向に返事をしない綾乃に、困ったように頭をかきながら、信太郎は「じゃ先生に挨拶してくるから」と言った。
父のもとへ向かう彼の背中を見ながら、彼女の目からは涙が溢れる。
今からでも「怒ってないから」と背の高い後ろ姿に抱きつきたい。
「だからまた月曜日に会おうね」って言いたい。
でも、『ナツ』と言った時の彼の顔がちらついて、そうはできなかった。
嫉妬している。
姿の見えない「ナツ」に。
綾乃は膝に顔をうずめると、冷たい夜風にその小さな体をさらし続けた。


