「天宮くん」
彼女はビニールシートの上であぐらをかき、無意味に早見盤をくるくると回す信太郎の後ろ姿に声をかけた。
「今、いい?」
「あ、うん」
先ほどまで彼が早見盤の見方を指南していた小学生は、今は配られるスープに群がっている。
慌てて立ち上がろうとする彼に、綾乃はコーンスープの入った紙コップを差し出した。
「あったまるわよ」
「ああ…サンキュ」
「隣に座ってもいい?」
腰を上げかけていた信太郎が再び座りなおすと、綾乃は滑るように彼の横に座り、膝を抱えた。
「あ、これ俺だけもらっていいの?よかったら…一緒に飲む?」
悪いと思っているからか、彼が自分に今とても気を遣っているのがよくわかる。
「ううん、私はいいの。それはよく働いてくれた天宮くんへのご褒美だから」
こんな冗談でも笑ってくれたらいいのに、綾乃はそう思いながら言うも真顔のままの彼からは、「そっか、じゃあいただくよ」という言葉だけが返ってきた。
信太郎は紙コップを両手で包み込み、口を何度か尖らせ、ふーっふーっとスープを冷ますと飲むよりも先に口を開いた。
「さっきはごめん。つい幼なじみの名前を呼んじゃって…そいつ近所に住んでてさ、昔よく月やら星やら見せてやってたもんだから」
「そう…」
膝を抱えた彼女の手に力が入る。
どうにか平静を装いたかった。
幼なじみとは言うけれど、その「ナツ」という人が男の子なのかも女の子なのかも彼は言わない。
だから、きっと女の子なんだろう、と綾乃は思う。
信太郎がスープをすする音が聞こえた。
「……」
「……」
綾乃は何も言わずに顎を膝に乗せ、微動だにしなかった。
そして信太郎も反応のない綾乃にそれ以上何も言わなかった。


