「愛してる」、その続きを君に



「鏡筒」


そう言って信太郎は綾乃に手を伸ばした。


「え?」


「それ貸して」


「あ、うん。はい」


どぎまぎしながら、大きな黒い本体を差し出す。


それを三脚に固定しながら、彼はいつになくわくわくしたように話し出した。


「今日は月齢10日くらいだから、虹の入り江っていうのが見えるんだ」


「虹の…入り江?」


「そう。もともとクレーターだったんだけど、噴き出した溶岩の影響で今は半円形の綺麗な入り江みたいになってる」


そう言って、ファインダー、レンズを順に取り付けていく。


綾乃が空を見上げると、満月までにはあと2、3割足りない、そんな月が浮かんでいた。


「俺の住んでるとこにそれとよく似た形の砂浜があってさ、ガキの頃よく遊んだよ。ま、田舎ってことかな。虹の入り江って洒落た名前じゃないしさ」


「見てみたいわ」


綾乃は信太郎の住む町の海岸のことを言ったつもりだったのだが、彼は月の表面の「入り江」のことだと思ったらしい。


「待ってって、今見せてやるから」と彼はレンズをのぞきはじめた。


その横顔があまりにも嬉しそうだったので、綾乃は何も言わずにその様子を見ていた。


「もうすぐだから」


指先の感覚を頼りに慎重にピントを合わせていく。


しばらくして、よしっと小さく声を漏らすと信太郎は顔を上げて満面の笑みで言った。



「ほら、ナツ。見てみ…ろ…」と。