「愛してる」、その続きを君に



児玉教授が主催する月に一度の天体観測のサークルの日がやってきた。


澄み渡った空に、児玉はうきうきとした様子で準備を進める。


信太郎も機材のセットを数人の大学生と共に行った。


「天宮くん」


綾乃がニット帽にダウンジャケットを着込んで、彼の前に現れた。


「どうしたんだよ」


「私でも役に立つことがあるかもしれないから」と微笑むと、


「よく言うよ。私がいくら手伝ってくれと頼んでも、絶対に嫌だと言ってたくせに。今日は自分からなんてな。雨が降らなきゃいいんだが」と児玉が横から口を挟んだ。


「お父さん!」


綾乃は父親の言うことにいつも顔を真っ赤にする。


それは信太郎の前だからであろう。


「そうだ、天宮くん、今日は月を子どもたちに見せたいんだ。望遠鏡をすぐに使えるように一応セットだけしといてくれないか」


「はい、先生」


好きな人が自分の父親のことを「先生」と呼ぶことに、綾乃は胸がドキドキしてしまった。


何だか特別な感じがする。


「さすがだな、いい望遠鏡だ。俺が持ってるのとは比べ物にならないよ」


そう言って信太郎は椅子に腰掛け、望遠鏡本体を手に取る。


綾乃も彼のそばにぴったりとくっついて、その様子を見ていた。


「役に立ちたいって言ってたくせに、見てるだけ?」


信太郎は笑ってそんな綾乃に言うと


「そ、そんなことないわよ」


と彼女は髪を撫でながらムキになった。


「じゃあさ、これ持ってて。落とすなよ」


彼は望遠鏡の本体を綾乃の胸元めがけて、ドンっと押しやった。


きゃっ、と小さな悲鳴をあげて、彼女はそれを抱きとめる。


「落としちゃだめって、こんなふうに渡されたら、落としちゃうじゃない」


「しっかり持ってないと、落としてお父さんに怒られるぞ」


「天宮くんてイジワルね」


「もしかして今頃気付いた?」


「ええ。でももう遅いわよね」


ははっと短く笑うと、信太郎は小型ライトの灯りを頼りに、三脚を手際よく立て始める。


光の中に浮かび上がったそんな彼の姿を、素敵だと綾乃は改めて思う。


そして左の頬にできるえくぼが何よりも魅力的で好きだ。