「愛してる」、その続きを君に



「すみません、小学生みたいなことしか言えなくて」


「そんなことはない」


そう言った児玉は真剣でありながら、妙に子どもっぽい顔つきだった。


先ほどもそうだったが、この男は信太郎が想像していた「教授」というイメージを完全に覆してしまった。


厳格で堅苦しく、とっつきにくい…そんなイメージとは異なり、娘と言い合う姿などは本当に子どもと変わらない。


「私はね、いつも思うんだ。一途に夢を追いかけている人間ほど、幼子みたいにシンプルだが熱いことを言うもんだって、ね」


「シンプル…?」


「本当に人を助けたくて医者になった人間に、どうしてその道を選んだのかと訊くと、たった一言しか返ってこない。目の前の命を助けたいから、ただそれだけなんだ。金儲けがしたくて医者になったやつに同じ質問をすると、やましさを感じるんだろう、大抵は生命倫理や命の尊厳についてツラツラとまくしたてる。結局何が言いたいのかわからんのだよ」


信太郎は神妙な面持ちで聞いていた。


「すまないね、私のほうこそ説教じみたことを言ってしまって」


そして児玉は棚から一冊の分厚いファイルを取り出しあるページを信太郎に見せた。


それは黄ばんだ新聞記事の切り抜きで、1969年のアポロ月面着陸を伝えるものだった。


「当時の私はまだ字も読めない幼稚園児でね、その記事に書いてあるようなことは全く覚えていないんだ。でも小学生の頃に父の書斎にこっそり入った時にそれを見つけてね。人間はなんてすごいんだって感動したよ。宇宙飛行士になりたいってそのときは思った。だけど、進学するにつれ、自分には向いてないってわかったんだ」


クックとかみ殺したように児玉は笑うと、デスクの前の革張りの大きな椅子に腰掛け、続ける。


「むしろ、月はなんで形を変えるんだろう、どうして季節によって星空は変わるんだろう、それが気になって今に至るというわけだよ」


そう言うと、彼はデスクの引き出しからパンフレットのようなものを取り出し、信太郎に差し出した。


とまどいながらもそれを受け取る。


「夢を本気で叶えたいのなら、K大工学部の宇宙工学科に行くといい」


「K大の…」


とても無理だ、あんなレベルの高いところ…そう思って無意識のうちに眉間に皺を寄せながら、手渡されたK大のパンフレットに信太郎は目を通す。


そんな気持ちを汲み取ってか、児玉はまぁまぁそんな顔をしなくても、と笑った。