電車が軋みながら動き出すと、綾乃が笑って手を振る。
それに応えて信太郎も軽く手を上げると、あっという間に、彼女の姿は後方に流れていった。
しばらく夕日の光を受け、美しく輝いたビル風景を見てから、信太郎は空いた席に座った。
綾乃の父との話を思い返す。
児玉の書斎はそびえ立つような書籍棚が壁一面を占領していた。
そこにはまたびっしりと本が詰め込まれている。
図書館のような一種のカビ臭さが部屋に充満していたが、それは決して嫌なものではなかった。
それと向かい合うように反対側の壁には、応接室にひけをとらないほどの大きな写真がかけてあった。
「アンドロメダ銀河ですか?」
食い入るように見入る信太郎の問いに、児玉は嬉しそうに頷く。
一階からは綾乃と夫人のなにやら楽しそうな声が途切れ途切れに聞こえてくる。
本当に仲のいい家族だ、彼はそう思っていると、
「君は大学進学を考えているのかな?」と児玉が訊ねた。
「はい、一応は」
「具体的にはどういったところを?」
「できれば宇宙工学を学びたいと思っています」
そこまで言うと、児玉は「なるほどね」と言いながら何度も頷き、書籍棚の前に立った。
「星が好きだから、私はてっきり君は理学部で天体を学びたいのかと思ったら、違ったんだね。そうか…その星があるところに飛び出したいタイプなんだね」
そう言っては再び頷く。
惑星研究を専攻する教授にマズイ事を言ってしまったかな、と信太郎は思ったがもう遅い。
いつものクセでしきりに鼻を触っていると、
「どうしてまた宇宙工学なんだい?」と児玉は質問してきた。
「お恥ずかしい話、たいした理由なんてないんです。子どもの頃から星が好きで、絶対宇宙人を探し出してやる、そいつらに会いに行くシャトルや衛星を作ってやろうって…ただそれだけなんです」
いざ進学の理由を口に出してみると、自分でも子供じみていて、信太郎は首をかしげて笑ってしまった。


